第168話 6月8日(茉莉って、不器用っぽい人との方が付き合いいいよね?)
茉莉の綺麗な長い黒髪が机上に散乱していた。
いや、散乱というのは大げさだったかもしれない。
彼女はただ単に、机の上で突っ伏しているだけだ。
しかし、その光景がちょうど器ごと黒そばをひっくり返したみたいに見えて……なんというか、かぐや姫もかくやというぬばたまの髪が台無しになっている。
「はあぁ……」
茉莉の顔は見えないが、聞こえてくる溜息で疲れた表情をしているんだろうと想像はできた。
「……なんか、奢ってあげよっか?」
「……奢らなくていいから。放課後、愚痴に付き合って」
◆
「小塚ってさ、茉莉のこと……好き、だよね?」
食券の自販機で順番待ちをしている間、後ろに並んでいる楠へ訊いてみる。
すると、楠は「流石の向坂でも気付くのか……」と驚いた声で返した。
「……もしかして、私のこと恋愛音痴だって思ってない?」
「そこまでは……けどまあ、少し鈍い所はあるよなぁって感じてたかな」
楠の答えを聞いて、つい眉間にしわが生まれる。
「それは……自分でも察しが良い方だとは思わないけど。今回は親友のことだから、普通に気付くよ」
ゆっくり進んでいく前の背中を見ながら言う私に、楠は「そっか」と穏和な声で返した。
「……当たり前でしょ」
なんだか付き合うようになってから……楠は私に対して良くも悪くも遠慮がなくなってきた気がする。
その遠慮のなさが、心地良い時もあるのだけど……今は、つんと唇を尖らせたい気分だった。
だから、決して振り返らず、質問だけを背後に向かって投げる。
「それで、小塚ってどんな奴なの? クラス別だから全然知らないんだけど」
「んー……一言で言うと、ちゃっかり者かな? いい加減に見えて、やることなすことそつがないというか」
「ふーん……いわゆる天才肌?」
「まさか。あいつは
なるほどと頷きつつ、ようやく順番が回ってきたので一旦話を切り上げた。
私は、まだ小塚のことをよく知らない。
けれど、茉莉のことはよく知っている。
(自分の好きなことをやりながら勉強もできる器用さがあって、たぶん力の抜き方が上手いちゃっかり者……茉莉とは正反対というか、一番苦手なタイプだよね)
脈がないというより……そう、小塚は茉莉と相性が悪い。
そう確信しつつ、私は
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