第108話 4月9日(……三年生か)
特に深い感慨もなく校門を抜けた。
葉桜を視界の端に見つつ、敷き詰められた花弁を踏み歩く。
そして、
(……そうだった)
一瞬、二年の靴箱に向かいかけた足を止め――爪先を軸にくるりと回った。
◆
靴箱の近くまで来ると、新しいクラスを張り出した掲示板に人だかりができていた。
自分が何組か知りたくはあるけど、学友たちの中へ割って入ろうという気は起きない。
結果、遠目に掲示板を眺めていると、
「ちなみ、おはよ」
夕陽に声を掛けられた。
「おはよう」
「クラス、どうだった?」
「まだ見てない」
直後、彼女は私の背中をぐいぐいと押して前へ進もうとする。
「ちょっと――」
「ん? 何よ、見に行くでしょ?」
「――行くけど、もう少し後からでも……」
「はあ? 突っ立ってるだけ時間の無駄でしょ。ほら、行くわよ」
無理やり夕陽に舵を取られ、掲示板へと近付いていく。
すると、
「あ! 夕陽、うちら一緒のクラスだったよ」
夕陽が仲の良い友達から声を掛けられた。
「マジか! 最後も明美と一緒とか最高じゃん! 雪とハッチは?」
「二人はべつー。リンのいる1組に取られてた。今年の女バスは1組に固まってる感じかなー」
「マジか……」
明美と呼ばれた――たぶん、私とも二年でクラスが一緒だった女生徒は夕陽と話し始める。
この隙をついて、二人から離れようとしたのだが、
「待て」
気付けば夕陽に首へと腕を回され、身動きが取れなくなっていた。
「……何?」
「明美、ちなみ何組かわかる?」
「向坂さん?」
明美――さん、が「えっとねぇ……」と呟く間、隠れて夕陽を睨む。
「ちょっとっ」
恨みがましく尖っていく口調。
しかし、夕陽は気にした様子もなく、
「あんたは人見知りしすぎ。せめて、アタシの友達とくらい付き合いなよ。その方が、私も楽だし」
彼女は、しれっと自分の交友関係に私を巻き込むつもりでいた。
ここから、どう反論しようか頭を巡らせてみるけれど、
「あったあった! 向坂さんもうちらと一緒の2組だよー」
考える暇などない。
正直、彼女の苗字が思い出せない中――、
「あ、ありがとう。よろしくね……あけみさん」
――つい、下の名前で呼んでしまう。
一瞬、夕陽の表情が『へぇ、やるじゃん』と私を見直したように柔らかく歪んだ。
やめて、そんなのじゃないから……ただ、明美さんの苗字がわからなかっただけ。
でも、
「こっちこそ、よろしくー! ちなみちゃん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます