第101話 4月2日(いいかも。嘘、では……ないし?)

「どうしたらいいかな?」


 目的を秘密にしたまま、相手を呼び出す。

 正直、どうすればうまく行くのかまるで見当がつかなかった。

 だから、こうして親友に向かって首を傾げ、頭も抱えて見せるのだが――、


「え? 夜桜を見に行くのがバレなきゃいいんでしょ? 別の用事ってことで呼び出せば?」


 ――茉莉はお菓子へ手を伸ばしてばかりで、どこか親身になってくれない。


「もう少し、真面目に考えて……」

「……十分まじめに考えた方だよ」


 投げやりに言う茉莉へほんの少し頬が膨らむ。


「……茉莉?」


 肩を揺すってみると、


「……何?」


 機嫌の悪い猫みたいな声が返って来た。

 彼女のしかめっつらを見ながら、細い溜息が漏れる。


「はぁ……嘘は言いたくないの」


 すると、


「はあ……本当、ちなってそういうところめんどくさいよね」


 茉莉は私よりも大きなため息を吐き、疲れたようにベッドへ寝転がった。


「ソレ、言ってみればサプライズみたいなもんなんでしょ? だったらノーカン。これくらい閻魔様も見逃してくれるよ」


 ぐぅーっと背筋を伸ばしながら言う彼女の口調は、まるで幼い子に言い聞かせるみたいだ。


「……なんか、子ども扱いしてない?」

「してないよ。ただ少し呆れてるだけ」


 直後、お尻を軽く叩くと茉莉は静かに冗談ぽく笑った。


「笑い事じゃない……」

「そう? あたしには微笑ましいくらいだけど? いや――」


 彼女は急にむくりと体を起こし、


「――むしろ、まごまごしてて見てるとイラついてくるかな?」


 私に指を差して……そのまま人指し指でおでこをつついて来る。


「……ちょっと」


 その手を払いのけた途端、


「で、どうするの?」


 ……茉莉は、さっきよりも少しだけ真剣に耳を貸してくれた。


「嘘を吐くにしても……変な嘘を吐いたら『あ、何かあるな』って気付かれちゃいそうで」

「あのお兄さんがそんなに察しがいいとも思えないけど?」


 首を傾げる茉莉は「心配しすぎ。大げさじゃない?」とも付け加える。

 けれど、


「彼の察しがいいんじゃなくて、私の嘘が下手過ぎるの」


 私の言い分を聞くなり「なるほど」と頷いてみせた。


「……いっそ、当日になってから急に呼び出したら?」

「何それ……――」


 『彩弓さんみたい』という部分は言葉にせず飲み込む。

 でも……そうか。

 彼の場合、彩弓さんっていう成功例がいるんだ。


「――いや……それで、やってみようかな」

「えぇ……」


 呆れて変な声が漏れる親友を他所に、私は『案外、上手くいくかもしれない』と感じていた。

 



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