【色合いグラデーションなWhite Day...】

第71話 3月3日(……ふふっ、苦労してるね?)

 期末テストも三日目が終わり、折り返しを迎えた。

 普段通りなら放課後に皆で集まり勉強会が始まるのだが、


「ごめん! 今日は先帰るね!」


 ホームルームの直後、茉莉が慌ただしく席を立つ。


「あれ? 今日忙しいの?」


 夕陽が自分の席から移動してくるなり、帰ろうとする茉莉に訊ねた。


「そう! ほら今日ひな祭りだからっ」

「ひな祭りって……ひな人形飾ったり?」

「そんなの当日にやってどうすんのよ……ああいうのは二月の内に飾っとくもんでしょ」


 ひな祭りに対して関心が薄かったのか、夕陽は「へぇ……」と頷きながら質問を続ける。


「じゃあ、今日は帰ったら何するの?」

「何って……そりゃ、帰り際にスーパー行って、その後はちらし寿司作るけど……」

「うわっ、茉莉が作んの? すご……しかも、なんか本格的じゃん」


 その後、夕陽は「その女らしい黒髪ロングは伊達じゃなかったか」と頷きながら納得――、


「いや、待って? アタシたち流石にもう、ひな祭りって歳じゃなくない?」


 ――しかけていたのだが、再び彼女は降って湧いた疑問をぶつけた。

 すると、茉莉は呆れ顔で鞄を肩に担ぎながら「いやいや、あたしじゃなくて妹だよ」と返す。


「茉莉って妹いたんだ?」

「言ってなかったっけ?」


 何故か、二人は互いに首を傾げ合ってしまった。

 私は見兼ねて「急ぐんでしょ?」と茉莉の背中を押し――、


「もう! わかってるよ! じゃあ、また明日ね!」


 ――茉莉の後姿へ手を振る夕陽には「つまり、そういうこと」と話して聞かせる。


「……そういうことって?」

「……茉莉が『いつも忙しそう』な理由でしょ。ああやって妹の面倒見てるの」


 夕陽は以前から抱いていた小さな疑問が解決したのか、思い出したように再び「あー……」と声を漏らし、


「なるほどね」


 感心したように頷くなり「もしかして、茉莉ってすごいシスコン?」と確信を突いた。


「……そこに気付いたなら茉莉と仲良くなるのもすぐだよ」


 冗談めかして返すなり、夕陽が『まさか』と眉をしかめる。

 それから私は『妹と言えば……』と思い出したように楠を見つめた。


「楠はいいの?」


 茉莉とのやり取りを見ていて、訊かれることがわかっていたのか、


「……何が」


 楠は突然、ものすごくめんどくさそうな顔になる。

 わりと好青年なイメージで通っている楠の表情が崩れていく。

 私はその様子がなんだかおかしくて、


「……なぎさちゃん」


 と、ただ名前を言っただけなのに。


「勘弁してくれ……」


 楠は大げさに頭を抱えて見せた。

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