第68話 2月28日(9、8、7………………)

 明日のテストは二科目と少ない。

 だから必要な教科書とノートに加え、筆記用具を入れただけの鞄はとてもすかすかだった。

 でも、だからこそ茉莉への誕生日プレゼントを忍ばせるには都合がいい。


「……よし」


 リボンがついた包装紙と見つめ合いながら、少しばかり華やいだ鞄の中身に満足して頷いた。

 これでプレゼントを忘れるという最悪の未来はありえない。

 残る問題は、選んだ本を茉莉が気に入って喜んでくれるかどうかだ。


「…………」


 一抹の不安を抱きつつ、準備は万端とベッドへ潜り込む。

 しかし、冬場にあたたかな布団なんてものは幻想だ。

 私は雪のようなベッドシーツに体をあずけた途端、ぶるりと身震いした。


「……さむっ」


 冷たい布団にくるまりながら、無理やり中の羽毛を抱き込む。

 寒さから逃れるために、もぞもぞと動いてもみた。

 だが、所詮は無駄な抵抗に過ぎず、止めようもなく溜息がこぼれる。


「……はぁ」


 すぐに布団が暖まるものでもないと諦めた後、とにかく体を丸めて過ごした。


 体温がベッドシーツへじんわりと移っていく様はとても悠長で実感しづらい。

 ぎゅっと爪先に力を込めてみても、肩が震えるのは変わらなかった。


「………………」


 目をつむったのも束の間、これはすぐに寝付けないなと確信する。

 けれど、今日に限ってはそれくらいでちょうど良かった。


 カチカチと秒針の歩みが聞こえてくる中、枕元に置いたスマホへ視線を移す。

 布団から覗く指先で電源ボタンを押し込むと、暗い部屋に画面が明るく光った。

 表示される時刻は『23:57』……茉莉の誕生日までもうすぐだ。


(……そろそろかな)


 私は眩しさに目を細めながら、ひとまずスマホの設定画面へ移る。

 そして、液晶の輝度を落とし、薄暗い光に満足してからメッセージアプリへと向かった。


「えっと……」


 『誕生日おめでとう』

 『今日が茉莉にとって素敵な一日になりますように』


 ありきたりな提携文を打ち込んで一度消し、


(……いや、やっぱり――たぶん、コレで大丈夫)


 しばらく考えた結果、もう一度同じ文章を打ち込む。


(本番は明日だし。それに、もう寝てるかもしれない……でも、茉莉、一夜漬けとかしてない、よね?)


 ふと疑問が浮かび、隙間なく布団に包まっていた首を傾げた。

 でも、


(……夕陽じゃあるまいし)


 最後にそう結論付け、送信ボタンの前で待機する。

 すると、気付いた時には寒さななんて忘れていて、


「……まだかな」


 日付が変わるのを、今か今かと待ちわびていた。




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