第61話 2月21日(3月1日は……)

 母が父のために買ったチョコレートアソートバレンタインのチョコレート

 そこから好きな味をいくつかさらい、珈琲片手にリビングのソファへ座る。

 しばらくもせず『地上波初放送』と銘打たれた放映が始まった。


「……」


 やたら物語仕立てになった車のCMを見ていると、茉莉からメッセージが入る。


 『今、何してる?』


 『テレビで映画見てた』


 『あたしも!』

 『明日、勉強会の前に感想会だね』


 つい口元が緩んだ。

 しかし、茉莉へ『わかった』と返信しようとした時、アプリから通知が来る。

 確認すると、複数人で同時にやり取りができる『グループ』への招待だった。


 グループ名には『勉強会』とあり、招待を受けた途端、夕陽からのメッセージが届く。


 『勉強会のグループを作りました』

 『試験範囲やプリントの写真とか載せられたら便利かなって』

 『雑談はなるべく避ける方向で』


 すぐに夕陽の打った文章へ二件の既読がついた。

 直後、茉莉からグループの方へメッセージが入る


 『マメだね』

 『少し意外だったかも』


 この二言に夕陽はすぐさま反応した。


 『なんでよ』

 『これくらい普通でしょ』

 『部活でもこういうはアタシの仕事だし』


 『そうじゃなくて』

 『雑談避けるってとこ』

 『もっと話したがるかと思った』


 (……コレ、楠も招待されてるって、知ってて夕陽をからかってるよね?)


 ふと、スマホを手にしたまま動揺し、なんと返信しようか迷う夕陽の姿が浮かぶ。 


 『これ雑談でしょ!』

 『禁止!禁止!』


 間髪入れず、茉莉が『ごめんね』としゃべるウサギを送り、


 『あと、ありがと』

 『作ろうか迷ってたから助かった』


 と打ち込む……再び夕陽からの返信が止まった。

 何故か『急にお礼とか言うな』と怒り出す彼女の姿を想像してしまう。


 『はいはい』

 『そういうのいいから』

 『とりあえず試験範囲共有しとく』


 その後、各教科の範囲が送られてきた。

 私は夕陽の送信が落ち着いた後で部屋へ戻り、昨日作った一問一答を撮影してからグループに画像として共有する。


 『日本史の範囲で一門一答作りました。』

 『使うならコピーして持ってくけど、いる?』


 すぐさま茉莉から『ノ』という一文字が送られた。

 続いて夕陽からは『早ッ!もうそんなの作ったの?』『ちょうだい!』と返事がくる。

 また、楠からも遅れて『逢沢、招待ありがとう』『向坂、俺の分も頼む!』と反応があった。


 私は『わかった』『じゃあ、三人分ね』と文字を打ち込む。


「……よし」


 もうすぐ期末試験――そして、茉莉の誕生日まで、あと一週間だ。

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