第49話 2月9日(……そうだよね。友達だもんね)
茉莉と隣り合って下校する中、
「ねぇ……楠にチョコあげるの、やめた方が良い?」
そう訊ねると、ぴたりと歩みが止まる。
「……全然、やめなくていいよ」
頬を橙色に染められた微笑みは穏やかで、彼女がもう怒っていないんだとわかった。
「……ちなはさ、あたしが意地悪で言ってると思う?」
ゆっくりと歩き出した茉莉の隣で、足元を眺めて考える。
けれど、考える時間はほんの一瞬で十分だった。
「……意地悪とは、きっと違う」
だって、茉莉は優しいから。
でも――、
「――でも、理由はよくわからない」
答えてから顔をあげ、親友に向き直る。
すると、茉莉は夕焼けの切ないあたたかさに口元を染めながら笑っていた。
「本当、ちなはそう言うところ面倒くさいよね」
「そう?」
「そうだよ」
足元に伸びた影を二つ見つめながら、茉莉の唇が解けていく。
「ちなはさ、学校の男子にはあげないと思ってた」
「それは私もだよ」
「あはは、だよね! それに、ちなは――」
ふと、親友の瞳が私を捉えた。
だけど、彼女の双眸は私ではない誰かを見ているようで……。
「……茉莉?」
「何でもない。ちなは、そういうの本当にゆっくりだもんね」
「何、それ?」
もったいぶった言い方をした茉莉に、つい唇が尖る。
それから、茉莉は「知ってた?」なんて言って話題を変えた。
「楠、あれで結構モテるんだ。同じクラスだと逢沢とかね」
「逢沢さん?」
直後、体育の授業中に話しかけられたことを思い出す。
「……ああ。だからあの時――」
「うわっ、何っ? もう絡まれてたの?」
驚く茉莉の声を聞き、絡むなんて大げさなと思った。
しかし、親友は大したことだと言うように手で顔を覆い、天まで仰いでみせる。
「逢沢って、言い方きついとこあるでしょ? だから敵味方みたいなの激しくて」
「……まあ、バッサリいくタイプだよね」
「あれをバッサリで片付けるか」
呆れる茉莉に首を傾げると、彼女は「いいけどさ」と言って続けた。
「だから、楠周りのことはお節介してたんだけど……流石に限界か」
そして、茉莉は困ったように笑う。
「あたしら、楠とちょっと仲良くなっちゃったしね」
「……ごめん」
「謝んない。ま、あいつも一応友達だし。チョコくらいあげたくなって普通でしょ」
「……だね」
「しょーがない! いっそ、あたしも楠にやるか!」
茉莉は黒髪を夕陽に反射させながら、大股で一歩踏み出し、
「ちなだけ槍玉にあげる訳にもいかないしさ!」
くるりと私へ振り返るなり、頼もしく笑った。
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