第43話 2月3日(私が……ば――えっ? 何?)

「向坂……その、謝らなきゃいけないことがあって」


 昼休み。楠に呼び出されたかと思えば、そんな言葉を開口一番で聞かされた。

 当然、頭の中には昨日の出来事が思い浮かぶ。

 楠の妹――渚ちゃんを楠の部活が終わるまでお守りしていたことだ。


「別にいいよ、私も楽しかったし――」


 楠にそう伝えながら、渚ちゃんと遊んだ一部始終を思い出す。

 そう……楽しかったのは本当だ。

 ただ……体力的、精神的に余裕だったかといえば嘘になる。


 というのも、空き教室の机に二人でビーズを広げている間……私は渚ちゃんとおしゃべりをしていたのだが――彼女の口は、予想以上に終始エンジンが掛かりっぱなしだった。


 最近ビーズにハマっていることに始まり、学校での出来事に、誕生日はいつか……。

 好きなものの話になった途端、色に動物、食べ物と……ありとあらゆる情報を聞かされた。

 しかも、それらの話を聞く間も、ビーズでアクセサリーを作る手が止まると怒られるのだ。


 茉莉の妹――陽菜ちゃんと全然違うタイプだったから驚いたのもあって妙に疲れてしまった。

 だから、


「――……たまになら、また一緒に遊んでみたいかな」


 若干、笑みを作りながら答える。

 また遊んでみたいという言葉に嘘はないが、たまにならという部分がこの上なく本当だった。

 苦手……とは違うが、私よりずっと早いペースで行動する渚ちゃんについていくだけで精一杯になるのだ。

 今思えば、陽菜ちゃんはお転婆だけどゆっくり屋なところがあるし、茉莉がサポートしてくれていたんだなと思う。


 だが、私が一人そんなことを考えていると――楠は申し訳なさそうに続けた。

 

「いや、それもそうなんだけど。そうじゃなくて……本当にごめん」

「……何が?」


「その……あれから、渚がまたすぐ向坂に会いたいって言いだして――」


 一瞬、肩がびくりと震える。


「――流石にそれは諦めさせたんだけど」

「……だけど?」


「…………渚を納得させるために、少し嘘を吐いたというか――あいつの妄想を否定しなかったというか」

「……それって、どんな?」


「その……向坂は毎日バレエ教室に通ってて、休日はお菓子作りやアクセサリー作りをしている、みたいな」


 その瞬間、言葉を失った。


「おかげで、毎日会いに行くってのは諦めてくれたんだが……もし、また会うことになったらその時は頼む」


「――な、なんでそんなことになったの?」


 気付けば私は、いつか親友に聞かされた言葉をそっくりそのまま楠へ告げていた。

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