第40話 1月31日(……もう街がバレンタインに染まり始めてる)
重いまぶたを開いた瞬間……寝過ぎたと確信した。
猫のように丸めていた体を起こし、ミノムシよろしく包まっていた布団から離れる。
手元に引き寄せたスマホを見ると、今は昼過ぎだと告げられた。
ついでに、
(……茉莉からなんか来てる)
午前中に親友からメッセージが送られていたことも通知される。
画面を人差し指でなぞるように触れていくと――、
『結局、バレンタインはどうするの?』
――今日はゆっくり過ごそうと決めていた休日に、暗い雲がかかり始めた。
◇ ◇ ◇
呼び出される形で待ち合わせ場所へ向かうと、茉莉がレジ袋を提げて立っていた。
どうやら、彼女は合流する前から買い物をしていたらしい。
「だって、次の
「……そうだね」
思わず目線を逸らしてしまった。
「そのせいで、今年のバレンタインってちょっと難しいんだよね」
「難しい? 何が?」
首を傾げて返すと、茉莉が呆れたように言う。
「今年の
しかし、
「……そう、だね」
残念なことに、私は難しい理由を聞いてもイマイチぴんと来なかった。
「わかってないでしょ?」
「……ん」
すると、茉莉はやれやれと肩をすくめて続ける。
「
「うん?」
「つまり、ゆっくり買い物するなら
「そうなの?」
「そうなの!」
それから茉莉は「
「だから今日買いに行くの。わかった?」
こくりと頷くと、茉莉の口から「よし」と満足げな声が出た。
だが、
「まあ、でも……これはあたしのバレンタイン事情だけどね」
彼女はそう言って肩をすくめる。
「……どういうこと?」
「だって、付き合ってたら普通、
直後、茉莉が『あたしの――』と言った理由を理解した。
「まさか、私も当日に渡すのっ?」
驚いて訊ねると「当然でしょ」という答えが返ってくる。
「彩弓さんがいるのに?」
「むしろ、彩弓さんにも渡せば? ていうか、ちなは彩弓さんからもらうこともあるかもね」
次の瞬間。当日、彼の家へ呼び出され、彩弓さんからチョコを受け取る未来が簡単に想像できてしまい――、
「バレンタイン、がんばる気になった?」
――茉莉の質問に無言で頷くと、私はチョコを求めて歩調を速めた。
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