第40話 1月31日(……もう街がバレンタインに染まり始めてる)

 重いまぶたを開いた瞬間……寝過ぎたと確信した。

 猫のように丸めていた体を起こし、ミノムシよろしく包まっていた布団から離れる。

 手元に引き寄せたスマホを見ると、今は昼過ぎだと告げられた。


 ついでに、


(……茉莉からなんか来てる)


 午前中に親友からメッセージが送られていたことも通知される。

 画面を人差し指でなぞるように触れていくと――、


『結局、バレンタインはどうするの?』


 ――今日はゆっくり過ごそうと決めていた休日に、暗い雲がかかり始めた。


◇ ◇ ◇


 呼び出される形で待ち合わせ場所へ向かうと、茉莉がレジ袋を提げて立っていた。

 どうやら、彼女は合流する前から買い物をしていたらしい。


「だって、次の日曜2月7日彩弓あゆみさんたちと出掛けるでしょ?」

「……そうだね」


 思わず目線を逸らしてしまった。


「そのせいで、今年のバレンタインってちょっと難しいんだよね」

「難しい? 何が?」


 首を傾げて返すと、茉莉が呆れたように言う。


「今年のバレンタイン2月14日は日曜でしょ?」


 しかし、


「……そう、だね」


 残念なことに、私は理由を聞いてもイマイチぴんと来なかった。


「わかってないでしょ?」

「……ん」


 すると、茉莉はやれやれと肩をすくめて続ける。


日曜14日は学校がないから、チョコを渡すとしたら前の日12日終わってから15日になっちゃうでしょ」

「うん?」

「つまり、ゆっくり買い物するなら今日31日くらいしかないの!」

「そうなの?」

「そうなの!」


 それから茉莉は「祝日11日はチョコを作るのにあてたいし、当日に買い物したくないでしょ?」とも付け加えた。


「だから今日買いに行くの。わかった?」


 こくりと頷くと、茉莉の口から「よし」と満足げな声が出た。

 だが、


「まあ、でも……これはのバレンタイン事情だけどね」


 彼女はそう言って肩をすくめる。


「……どういうこと?」

「だって、付き合ってたら普通、当日日曜に会って渡すでしょ? あと、も」


 直後、茉莉が『あたしの――』と言った理由を理解した。


「まさか、私も当日に渡すのっ?」


 驚いて訊ねると「当然でしょ」という答えが返ってくる。


「彩弓さんがいるのに?」

「むしろ、彩弓さんにも渡せば? ていうか、ちなは彩弓さんからもらうこともあるかもね」


 次の瞬間。当日、彼の家へ呼び出され、彩弓さんからチョコを受け取る未来が簡単に想像できてしまい――、


「バレンタイン、がんばる気になった?」


 ――茉莉の質問に無言で頷くと、私はチョコを求めて歩調を速めた。

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