第30話 1月21日(……ひょっとして、仲悪い?)
昨日からずっと茉莉はご機嫌ななめだ。
特に昼休み。
私が完成したブローチを楠へ渡しに行こうとした時なんて、尻尾を踏まれた後の猫みたいだった。
「……ちなは、ちょっと待ってて」
そう言い残し、茉莉は一人で楠の席に向かう。
彼女は人目を避けてブローチの手渡しができるよう楠に提案し、最後には「他の人には言いふらさないでね」と強く念押ししていた。
別に、誰かにアクセサリーを作ったことが周知されるくらい気にしないんだけどな。
と、思ったことを茉莉に伝えると……彼女はあきれ果てていた。
◇
そして私達は放課後、校舎裏に集まる。
「じゃあ、これ。妹さん、喜んでくれるといいんだけど」
「ありがとう。わざわざごめんな」
ブローチを手渡すと、楠はどこかばつの悪そうな顔で受け取った。
たぶん『妹の分まで作らせてしまった』と気にしているんだろう。
でも、きっとそれは理由の半分で、
「……」
もう半分の理由は私の傍でじぃっと楠を睨む茉莉だった。
彼女はブローチの受け渡しが終わった後も鋭い眼差しを緩めない。
その視線に私まで緊張しそうになる中、茉莉は不満そうにぽつりと呟いた。
「……もっと嬉しそうにしても良いんじゃない」
こんなにも誰かに棘のある態度で接する親友を見たのは初めてだ。
楠にとっても茉莉の対応は予想外だったらしく、おずおずと受け身になっていく。
「もちろん嬉しいよ。ただ、妹に渡すモノだからかな……わざわざ作ってもらって申し訳ないって気持ちの方が大きくて」
柔和な表情は崩さないまま、楠が「ごめんな」と言葉を重ねる。
すると、間髪入れずに茉莉の眉がぴくりと動いた。
「……普通、可愛い妹ちゃんが喜ぶんだったら、もっと嬉しいもんじゃない?」
直後、穏やかだった楠の口元がぐにゃりと歪み、
「……いや、妹ってそんなに可愛いか?」
苦虫を噛んだような表情に、楠でもそんな顔するんだ、と思う。
だが、同級生の意外な一面に関心を抱いていると、
「……普通、可愛いでしょ妹」
茉莉の口から、低く唸るような声が聞こえてびくりと肩が震えた。
彼女は眉間に深くしわを刻み、目付きの鋭さが緩まない。
対して楠は穏和な態度こそ崩さないものの、首を傾げて『理解できないな』という感情が見え隠れしていた。
「……ま、そういう人もいるんだろうけど」
この後、茉莉の顔がどうなったかなんて言うまでもない。
二人の様子を見守りつつ、どんな人にも馬が合わない人はいるんだなと……他人事みたいに考えていた。
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