第25話 1月16日(絶対に渡す…………たぶん)

 茉莉まつりから教えてもらったアクセサリーパーツ専門店でハンドメイド用の素材を購入した。

 まず、四角い銀色のカフスボタンを一対。

 次にラインストーンは、ダイアモンドみたいな無色透明と、同系統で透明度が高かい灰色の二種類を選んだ。

 これで彩弓あゆみさんの硝子をあしらったカフスボタンにイメージは近付く筈だ。


 後は脳内にある設計図と照らし合わせながら完成を目指すだけ。

 初めて扱うカフスボタンでも、今まで作ってきたモノと要領は変わらないだろう。

 上手な作品を参考にして、じっくりやればいい。


 などど考えていたのだが、作業は少々難航していた。


 基本的に、金具へラインストーンを並べ、貼り付けていくのはこれまでと同じだ。

 ただ、左右対称になる作品というのは、単一の物作りにはない難しさがあった。


 完成した一つ目とそっくり同じモノを作らねばならない煩わしさ……。

 二つ目の制作に取り掛かってすぐ、深い溜息が出る。


「はぁ……」


 一度、休憩を挿もうとイスにもたれた。

 この時、出来上がったカフスボタンの片割れと目が合い『私の伴侶はまだ?』と急かされる。

 せっついてくるプラスチックのお姫様を無視して、だらりとテーブルの上へ寝そべった。


「……疲れた」


 ひんやりと気持ちのいいテーブルに頬を着くと、卓上で転がるラインストーンたちが見える。

 積雪みたいに光を反射する素材の姿は……ふと、子どもの頃にやった雪遊びを思い出させた。


 真っ赤になった手で雪を触り、靴下がずぶ濡れになるまで一生懸命なにかを作った昔の記憶。

 結局、作ったなにかは昼過ぎには溶けて無くなってしまったけど。


(……成長してないな、私)


 今のこの状況も、あの時と変わらないのではないかと思った。


 溶けて無くなり、記憶からも消えた雪のなにかみたいに。

 このカフスボタンも彩弓さんに、無駄になるんじゃないかと不安になる。


 ――いや、違う。


 モヤモヤした不安の正体を見つめ直し……自虐的に言い聞かせた。


 ――本当に不安なのは喜んでもらえないことじゃないでしょ?


 私はコレを……ちゃんと彩弓さんに渡せるか不安なんだ。

 渡せずに、やったことが無駄になるんじゃないかと臆病になっている。


「……意気地ないね、私」


 部屋の蛍光灯に照らされたカフスボタンが『何よ?』と反抗的に光を反射した。


「……」


 もしも、これが彼に渡すモノだったら……きっと、こんなにうじうじ考えることはないのに。

 そんなことを考えながら、むくりと体を起こした。

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