第22話 1月13日(でも、何をあげればいいの?)
「終わったぁ……!」
居残っていた教室に茉莉の疲れ切った声が響いた。
彼女はくっつけ合っていた二つの机に倒れ込むなり深い溜息を吐く。
腰元まで伸びた髪が次々と背中から零れ落ちていく中、その肩に手を置くと「お疲れ」なんて言葉がするりと出てきた。
「ちなもお疲れぇ……」
「結局、いくつ作ったの?」
大量のビーズアクセサリーを前に、思い浮かんだ疑問はすぐ声という形を得る。
手伝い始めてから、見ていた範囲では二十個程作ったように思うけど……。
「んー? 簡単なのも合わせて五十個かな」
にこりと笑う満足げな顔に、喉まで出かかった『業者か』というツッコミは飲み込んだ。
「よし! なんか飲み物買いに行こ! お礼に奢るからさ!」
◇
校内にある自販機の傍は寒く、私達は飲み物を買うなり缶のフタを開ける。
茉莉は鈍い銀色のフチへ口をつけると、温かいココアを夏場の麦茶のようにラッパ飲みした。
「ぷはっ」
直後、甘い吐息が
私も、早く温まりたいと珈琲から昇る湯気へ唇を近づけるが、
「ところでさ。結局、彼女さんには何か作るの?」
唐突な質問で、忘れかけていた記憶を呼び起こされた。
「……あれ、本気だったの?」
「半分くらい? というか、本気で行くの? 日曜日」
「……もう約束しちゃったし。今更逃げても仕方ないでしょ?」
私自身、どうかしてると思わないでもないけど。
これは避けられないことなのだと、半ば自己暗示のように答えた。
それに、行かなければ楠に言った『日曜は予定がある』というのも嘘になってしまう。
「……だから行きはするかな」
くいっと珈琲を傾け、
「……何か作るとかは――まだ、わかんないけど」
最後にそう締めくくった。
すると「そっか」と、茉莉が一人納得したように頷く。
「実際、何か作っていっても喜ばれるかわかんないしね」
「……こいつ」
この瞬間、透明なリップに彩られた彼女の唇を縫い付けてやろうかと思った。
でも――、
『実際、何か作っていっても喜ばれるかわかんないしね』
――ならば、もし……喜ばれるものが作れたらどうだろう?
なんてことを考える。
だって、私は彼女に負い目があった。
去年、仮にも恋人と過ごすクリスマスの夜を邪魔してしまったことだ。
別に彼の聖夜がどうなろうと今更知ったことではないが……彩弓さんは違う。
だから、もし私が嫌われてないのなら。
もし、何かを贈ることで多少の穴埋めになるのなら。
……何か、作ってみるのはありかもしれない。
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