第17話 1月8日(……寒い)

 まだ元気な使い捨てカイロを握りしめ、だらりと机に寝そべる。

 夏にひんやりと気持ちよかった机の……冬の裏切り様は酷かった。


 むくりと上半身を起こした途端、溜息が出る。


 (……時間、何して潰そう)


 スマホの充電は満タン。

 まるで『いつまでも付き合うよ』と言ってくれてるようだけど、寒さに身震いする教室でいつまでもなんて拷問でしかない。

 似た理由で本を読むのも諦めた。


 いっそ学校を出て喫茶店にでも入ってしまおうか?

 いや、窓の外では寒風が口笛を吹いている。

 まだ到底、外に出たいとは思えない。

 それに寒いのは気温だけじゃないし。

 つい、もらったお年玉を置いておけば……なんて考えてしまった。


 本当は、彼の家で時間を潰せれば、それが一番楽なのに。


 距離を置くと決めてまだ間もない。

 やはり、ここで本でも読もうかと考えた時だった。


 閉め切った窓を透かし、校庭から野球部の声が聞こえてくる。

 『お願いします』と言ってノックが始まると、ひどく肩身を狭く感じて……帰り支度を始めた。



 家の近くまで帰る逃げる頃には酷くお腹が空いていて、ひとまず温かい物でも買おうとコンビニへ入ったのだが、


「昼間から……こんな所で何してるんですか」


 そこで彼とばったり会ってしまった。


「何って、昼食の買い出し」

「そうですか。それじゃ」

「あっ、ちな!」


 何も買わず、ただ彼から離れたくて店を出ようとした所を呼び止められる。


「今日は寄ってかないのか?」

「……彼女がいる人の家に?」


 思わず棘のある声が出たけど、彼は『今更?』とでも言うように首を傾げた。

 だから視線を合わせないまま、感情に任せて口走る。


「相手に悪いとかないんですか。普通、嫌ですよ。女子高生を部屋に入り浸らせてるとか」

「それ、人聞きが悪すぎるな」

「事実でしょ? どうせ私のこと、ろくに説明してないんでしょうし」


 しかし、


「……してるぞ」

「は?」


 予想外の返答に、脳みそがひっくり返る。


「いつ……何て?」

「年末に。彩弓あゆみさんが家に来たことがあって」


 一瞬、の間違いでしょ? と訂正しかけたが、自制する。


「話の流れでアルバム見せたんだ。俺達、一緒に映ってるのも多いだろ? だから――」

「つまり、少し前までの私の顔、名前も。もう、その彼女あゆみさんは知ってるの?」

「ああ」

去年クリスマスのことも?」

「全部な」


 そして、思い出す。

 初詣の後、彼女と会った時のことを。


「そう、ですか」


 つまり、あの時にはもう――知った上で、知らないふりをしていたんだ。

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