第15話 1月6日(1個、600円くらいだっけ?)
課題の広げられていたハウステーブルへ茉莉が覆いかぶさり、
「お、終わったぁ」
と、溜息をこぼす頃には窓の外に月が見えた。
「お疲れ」
疲労感の滲んだ笑顔が、淹れ直したばかりの紅茶を受け取る。
「ありがと……ねぇ、今日もぅ泊っててもいい?」
「いいけど、陽菜ちゃんはいいの?」
軽い冗談だったのだが、茉莉は頬を膨らませると思いの外に拗ねてしまった。
「……あたしだって、いつも陽菜にべったりじゃないよ?」
「……そう?」
「そうだよ」
また、溜息がこぼれる。
彼女は突っ伏したまま紅茶を
「……何、これ?」
ぽつりと呟いたかと思えば、私が昨日いじめたポチ袋を拾い上げていた。
「ソレ、ほしいならあげる」
あえてつまらなそうに言うと、茉莉の指が開封を始める。
そして、
「一万円だっ!」
彼女は驚くなり、口の開いたポチ袋を差し出した。
「も、もらえないよっ」
「そう?」
友人の手からつまみ上げたソレを、
すると、万札を大金らしからぬ扱いで
「それ、あの人にもらったの?」
「……そう」
頷いた直後、目が合う。
「怒ってる?」
まるで『話なら聴くよ?』と言うように首を傾げられた途端、
「……違う、怒ってない」
私は、胸の内を吐露していた。
「これは、たぶん自己嫌悪」
「自己嫌悪?」
「ん。彼女がいる人を好き勝手に振り回して、子どもだなって」
「そう、だね」
小さく頷いた茉莉の指先へ視線を逃しながら、止めようもなく想いが溢れていく。
「だから……少し距離を置く気」
「えっ?」
しかし、静かに聴いてくれていた彼女が驚きの声をあげ――、
「それは、彼を諦めるってこと?」
――『諦める』なんて続けた途端……感情にフタがされた。
「……何、諦めるって」
「え? 横恋慕はやめるって話じゃないの?」
「は?」
思わず荒い声が漏れる。
「何それ。勘違いしてる。そもそも私、彼に恋愛感情とかないし」
「……はあ」
何故か、今日一番大きな溜息が部屋の中に溶けた。
「まだ、そこかぁ」
「……何が?」
「別に」
やり終えた課題を片付けながら、茉莉が目を逸らす。
けれど、
「……」
未だにお年玉を持て余す私を見かねたのか、
「ところで、
と、助け船をくれた。
「……どうしよう」
「……ひとりじゃ使えないんだね?」
きゅっと唇を結んだまま頷く。
「明日、ソレで駅ナカのケーキでも食べよっか」
それはとても魅力的な提案に思えた。
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