第14話 1月5日(こんなもの……)

「……ふぅ」


 冬休みの課題を終わらせ、『やりきったな』と溜息がこぼれた。

 指先を離れてノートの上に転がるシャーペンも『一仕事終えたぞ』と、どこか誇らしげだ。

 そうして心地よい疲労感に浸りながら体を伸ばしているとスマホの通知が鳴った。

 真っ暗だった画面に明かりが点り、茉莉からのメッセージが表示される。


 『年賀状届いたよ!』

 『ありがとー!』

 デフォルメされた牛のキャラクターが♪マークを浮かべて踊っていた。


 それを見てつい口元が緩むを感じつつ、人差し指ですいすいと返信していく。


 『どういたしまして』

 グッと親指を立てる猫を同伴させると、すぐに『既読』の文字が浮かんだ。


 直後、


 『今から話せる?』


 と、茉莉から訊ねられる。


「……?」


 首を傾げ『いいけど』と送信すると――間髪入れずスマホが震え出し、


「もしもし?」

『ちな! もう課題って終わった?』


 開口一番に飛び込んで来た言葉で、私は彼女の現状を察した。


「……写させてほしいって?」

『ち、違うよっ? ただ、終わってるところを少しだけ見せて欲しいというか……』

「ん……いいよ」

『本当っ?』

「ホント。で、どこでやるの?」

『うーん、ちなの家じゃダメ?』


 甘えるような声に耳がくすぐられる中、ぐるんと首を回す。

 綺麗に整頓された――もとい、殺風景な部屋は今すぐ泊りに来られても問題ないくらいだ。


「いいよ」

『やった! じゃあ明日、十三時に駅前集合で』

「……それ、迎えに来いってこと?」

『ついでに駅ナカのケーキ屋さんで何か買ってこ?』

「本気? 高いよ、あそこ」

『じゃあ、コンビニでテキトーに』

「わかった。じゃあ明日ね」


 通話を切ると、また茉莉からメッセージが入る。

 ぺこりとお辞儀をするウサギの頭上に『ありがとう』という文字が躍っていた。

 

「……どうしたしまして」


 (写させてあげるなら、他のも出しといた方が良いか)


 通学鞄に直していた課題を引っ張り出し、先程やり終えたノートの上へと積み重ねていく。

 ほどなくして目の前に不味そうな菱餅が現れると、


「……茉莉、一日でできるかな?」


 思わず友人の泣きべそが思い浮かんでしまった。


「さて、と」


 リビングに降りて甘いものでも探そうかと立ち上がる。

 すると、


「……」


 昨日から机の隅っこに放置していたポチ袋が見えて――、


「……んっ」


 ――気付いた時には、人差し指がソレを蹴っていた。

 軽い紙袋は音もなく机の上を滑り、足元に落ちてくる。


 袋に描かれた牛が、寂しそうにこちらを見上げていた。

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