第10話 1月1日(あの時の人だ……)

「あけましておめでとうございます」


 艶やかな晴れ着を身にまとい、深々と少女が腰を折る。

 ゆっくりと顔をあげる姿は薄っすらほどこされた化粧も相まって、とても小学生には見えなかった。


「陽菜ちゃん、晴れ着似合ってる。すごく大人っぽいね」

「でしょー!」


 しかし、大人びて見えたのは無邪気な笑顔が咲くまでだ。


「実は振袖だけじゃないんだよ! お姉ちゃんがお化粧もしてくれたのっ、今日はね、ナイショモードじゃないんだ」


 はにかむ少女の唇は淡い桜色に染まっている。

 ということは、と茉莉へ目線を流すと、今日は姉妹揃って唇に色がついていた。


「いいね、茉莉。

「それ、からかってるの?」

「……ん。たぶんね」


 ◇


 有名でなくとも近場の神社には地元民が集まるようだ。

 おしくらまんじゅうと言う程ひどくはないけど、参道を埋めるくらいには既に人だかりができていた。

 列と呼ぶよりも群れと呼ぶ方が相応しい人々の姿に、私達は『よし並ぼう』とは意気込めない。

 凄いね、なんて月並みな感想を口にしながら突っ立っていると、陽菜ちゃんがぐいっと茉莉の袖を引っ張った。


「お姉ちゃん」

「うん? どしたの?」

「お汁粉飲みたいかも」

「お汁粉?」


 他の参拝客が持っているのを見て欲しくなったみたいだ。

 ここは確か甘酒やお汁粉を配っていた筈。

 ぐるりと辺りを見渡すと、参拝とは別に短い列があった。


「いいんじゃない。あっちの列、こっち程ひどくないし」


 私も温かいものがほしいと陽菜ちゃんに賛成すれば、妹に甘い茉莉が反対することはない。


「じゃあ、もらいに行こっかお汁粉」

「うんっ!」

「甘酒もあるみたいだけど?」


 二つに分かれた行列を指して言うと、


「分担する? あたし、陽菜と一緒にお汁粉もらって来るよ」


 自然と自分がどちらに並ぶか決まりそうになり、


(なら私は……)


 と、甘酒の方へ視線を向けた時だった。


(……あっ)


 彼が、知らない女性と隣り合っているのを見つけてしまった。

 いや、違う。

 知らない女性じゃない。


(あの人、確か……)


 彼女は、いつか道に迷っていた人だった。


 順番を待ちながら談笑する二人の姿で、関係性を察せないほど子どもじゃない。

 だからこそ、いっそ話しかけてしまおうかと選択肢が浮かぶ。

 でも、


(無理。できる筈ない……そんなこと)


 気付いた時には茉莉達に向き直り、


「ねぇ……やっぱり私がそっちに並んでいい?」


 三人分のお汁粉をもらうと、目立たない場所で体を縮め……二人のことを待っていた。 

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