第11話 1月2日(……面倒な人)
冬休みの課題を片付けるべく勉強机に向かい合った途端、
「コレ……」
昨日、茉莉に渡す筈だった年賀状と目が合ってしまい……頭を抱えた。
「……忘れてた」
◇
暖房の行き渡らない玄関が既に寒く、外はどうかなんて考えるまでもなかった。
それでも、今ポストに投函しないと三学期が始まるまでに茉莉へ年賀状は届かないだろう。
ぐるぐると首へ巻いたマフラーに口元を埋めながら……「よし」っと、外出した直後、
「あっ」
道の真ん中でスマホとにらみ合いながら固まっている彼女さんを見つけてしまい……何故、今、外へ出てしまったのかと後悔した。
「……」
相手はまだ私に気付いてない。
なら、やり過ごすのは簡単だ。
しかし、このまま放置するのは後味が悪く思えて――、
「……あの、」
――つい声をかけてしまった。
「ごめんね。二回も助けてもらっちゃって」
「いえ、気にしないでください」
「親切なんだ?」
「そんなことは……私はポストに用事があるだけで、駅の方にもポストはありますから」
最寄り駅まで彼女さんを送るとなると、私の目的地も変わって来る。
けど、家から郵便局に行くのと、駅までの距離はそれほど変わらない。
なのに、こちらの顔を覗き込んでくる彼女には……どうにも額面通りの言葉が照れ隠しとして伝わっているように思えた。
「ふーん……ねぇ、やっぱりこの辺の子なんだよね?」
「ええ、まあ」
「だよね。私はこの辺はじめてだからさ。年末に……友達の家に泊ったんだけど、帰り道わからなくなっちゃって」
嘘……と、胸の底から泡のような言葉が浮かび上がり、声にならないまま消える。
だって、間違っても踏み込める筈がない。
唇を半分縫い付けられたような心境で、私は慎重に返答していく。
「送ってもらおうとか思わなかったんですか? お友達に」
「そういう過保護っぽいの好きじゃないんだ。構われ過ぎっていうか、こども扱いされてるみたいで」
「はあ」と相槌を打つと、彼女さんは冗談ぽく声を弾ませた。
「ま! 送ろうか? って訊かれなかったら、それはそれで嫌なんだけどね。私がいらないって返しても怒らずに、わかったって頷いてくれるまでがワンセットなんだよ」
ほんの短い間、言葉を交わしただけなのに……つい、面倒な人だなと思ってしまう。
でも、
「……私も、送らない方が良かったですか?」
「ううん、あなたはいいの。今はこうしてもらえて嬉しいくらいかな」
なんとなく、私には彼女の考え方が理解できてしまいそうだった。
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