第6話 12月28日(この猫……なんのキャラなの?)

 ベッドへ放り投げていたスマホを拾い上げると、気付かない内にメッセージ通知が来ていた。


 ロック画面に表示された送信主は茉莉だ。


『プレゼントちゃんと渡せた?』


 心配性な文面を見て、すぐにロックを解除する。

 薄緑のアイコンに指で触れ、アプリが起動するなり返信を打ち込んだ。 


『リストレストが被ってた』

『だからボールペンのほう渡した』


 直後、メッセージに既読が付き、驚く猫のイラストが現れる。


『マジ!?』

『えぇ……彼女ならもっと積極的なものを贈ると思ったんだけどなぁ』

『ごめんね』


 茉莉の気持ちを代弁していく名前も知らないキャラクターが続けざまに流れた。

 その涙を浮かべて震える姿に、これは訂正しなければと思う。


『ああ、それ違う』


『違う?』


『リストレスト、今年の誕生日にもらってたんだって』


『!?』


『私が知らなかっただけみたい』

『だから、謝らないで』

『……』

『あのリストレストも茉莉がもらってくれる?』


 一拍置いて、既読の文字が浮かぶ。

 彼女から『パス』『自分で使いなよ』と返事が来たところで、再びスマホをベッドに投げた。


 しかし、スマホがボフンッと布団に沈んだ途端、また通知音が鳴る。

 仕方がなく顔を向けてみると、


『ボールペン喜んでもらえた?』


 そんな文字列が液晶の中に踊っていた。


「……『喜んでもらえた?』か」


 理不尽にも放り投げられたスマホと同じように、自分の体をベッドへ委ねる。

 猫のように丸くなりながら枕を抱きしめ、勉強机の上――背丈の縮んだアロマキャンドルに視線が惹かれると、つい彼とのやり取りを思い出した。




『家にボールペンが増えてたんだけど』

『ちなの?』


『違う』

『私のじゃない』


 例えば『そっか、わかった』とか、そんな返事を期待していた。


(今はもう、あなたのでしょ)


 嘘は吐かず、だが言葉は足りず。

 少しずつ、彼への興味を失えればいいのにと……なんてことを思いながら。


 なのに。




『ひょっとして、俺にくれたから?』


 たっぷりと間を空けて、そんな言葉が戻って来たから――、


「…………」




『さあ?』

『勝手に生えて来たんじゃないですか?』

『箸立てから』


 ――愛想のない答えを送った後、スマホは放り投げられた。




 喜んでもらえたかなんて、わからない。

 だって、ほんの少し値が張るだけの……ただの筆記用具だ。


 でも、


「たぶん、今も……あの人はなんだって喜ぶから」


 秒針の歩みがはっきりと聞こえる静かな部屋に、言われてもいない『ありがとう』が聞こえてしまった。

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