第5話 12月27日(コレ……どうしようかな?)
『彼女と被るのはNGだから、一応ね』
茉莉が選ぶのを手伝ってくれた手触りの良いリストレストと、
(結局、ボールペンか)
最悪の場合、絶対にこれは彼女さんと被らないからと……予備に買ったボールペン。
可愛らしくクリスマスカラーに包装された前者と、申し訳程度にプレゼント用の包装をされた後者。
二つの贈り物をカバンに忍ばせ、私はインターホンを鳴らした。
◇
玄関からリビングへ案内される時、仕事部屋の前を通る。
ちらりと中を覗いてみると、パソコンの画面が明かるかった。
「日曜なのに仕事してたの?」
「ああ……年末だしな。俺の場合、家でできることが多いから」
妙な間を空けて悪びれる様子もなく言った彼に、嫌な連想が浮かぶ。
(イブに、クリスマス……そのしわ寄せか)
「まぁ、いいですけど」
恋人のためにがんばる姿を見に来た訳じゃない。
渡すものを渡して早く帰ろうと、考えた直後だった。
(――あ、)
作業デスクの傍、マウスのすぐ隣にリストレストが転がっている。
可愛らしい動物を模したソレは、到底彼が買うようなモノではない。
「あれ」
「ん?」
「あの可愛いの、彼女さんからのプレゼント?」
私の視線を追い、彼が仕事部屋を覗く。
「可愛いの?」
「……リストレスト」
ポツッと、ロウソクの火が消える時みたいな、か細い呟きが出た。
でも、静かな屋内で彼が聴き逃す筈もない。
「ああ、今年の誕生日にな」
胸の奥から硝子にひびが入るような音がした。
「……そう」
カバンを握りしめる手に力がこもる。
切ったばかりの爪が皮膚に食い込み、痛くて熱い。
なのに、だんだん指先から熱が引いていくような気がして……いつしか心まで冷めていた。
リビングに来るなり、あと少しで仕事が片付くからと一人にされた。
でも、差し出された紅茶は温かく、唇に触れる度ほっと気分もほぐれていく。
「ふぅ……」
その結果、エンジンの掛かった私はカバンからボールペンを取り出すと包装紙を無理矢理剥がしキッチンへ向かった。
ドアを開け、真っ先に目に付いた箸立てへと近付いていく。
直後――バリッと、包装容器を破ってボールペンが飛び出した瞬間、ソレを箸のように突き立てた。
「……ん」
箸が肩を寄せ合う中、筆記用具が異様な存在感を放つ。
そのシュールな光景を前に、心は少しだけスッキリしていた。
「じゃ、帰るから」
来た時のように仕事部屋を覗き、彼の背に呟く。
「え?」
振り返った声もろくに聞かず、私は軽い足取りで踵を靴へと滑らせた。
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