第5話 12月27日(コレ……どうしようかな?)

 『彼女と被るのはNGだから、一応ね』


 茉莉が選ぶのを手伝ってくれた手触りの良いリストレストと、


(結局、ボールペンか)


 最悪の場合、絶対にこれは彼女さんと被らないからと……予備に買ったボールペン。

 可愛らしくクリスマスカラーに包装された前者と、申し訳程度にプレゼント用の包装をされた後者。

 二つの贈り物をカバンに忍ばせ、私はインターホンを鳴らした。



 玄関からリビングへ案内される時、仕事部屋の前を通る。

 ちらりと中を覗いてみると、パソコンの画面が明かるかった。


「日曜なのに仕事してたの?」

「ああ……年末だしな。俺の場合、家でできることが多いから」


 妙な間を空けて悪びれる様子もなく言った彼に、嫌な連想が浮かぶ。


(イブに、クリスマス……そのしわ寄せか)


「まぁ、いいですけど」


 恋人のためにがんばる姿を見に来た訳じゃない。

 渡すものを渡して早く帰ろうと、考えた直後だった。


(――あ、)


 作業デスクの傍、マウスのすぐ隣にリストレストが転がっている。

 可愛らしい動物を模したソレは、到底彼が買うようなモノではない。


「あれ」

「ん?」

「あの可愛いの、彼女さんからのプレゼント?」


 私の視線を追い、彼が仕事部屋を覗く。


「可愛いの?」

「……リストレスト」


 ポツッと、ロウソクの火が消える時みたいな、か細い呟きが出た。

 でも、静かな屋内で彼が聴き逃す筈もない。


「ああ、今年の誕生日にな」


 胸の奥から硝子にひびが入るような音がした。


「……そう」


 カバンを握りしめる手に力がこもる。

 切ったばかりの爪が皮膚に食い込み、痛くて熱い。

 なのに、だんだん指先から熱が引いていくような気がして……いつしか心まで冷めていた。




 リビングに来るなり、あと少しで仕事が片付くからと一人にされた。

 でも、差し出された紅茶は温かく、唇に触れる度ほっと気分もほぐれていく。


「ふぅ……」


 その結果、エンジンの掛かった私はカバンからボールペンを取り出すと包装紙を無理矢理剥がしキッチンへ向かった。

 ドアを開け、真っ先に目に付いた箸立てへと近付いていく。

 直後――バリッと、包装容器を破ってボールペンが飛び出した瞬間、ソレを箸のように突き立てた。


「……ん」


 箸が肩を寄せ合う中、筆記用具が異様な存在感を放つ。

 そのシュールな光景を前に、心は少しだけスッキリしていた。




「じゃ、帰るから」


 来た時のように仕事部屋を覗き、彼の背に呟く。


「え?」


 振り返った声もろくに聞かず、私は軽い足取りで踵を靴へと滑らせた。

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