第4話 12月26日(本当は、買うつもりなんてなかったし)

「クリスマスプレゼントって、クリスマスが終わってから渡しても意味ないと思うんだけど」


 二人で文房具店へ入るなり、茉莉は呆れ気味に指で髪を弄びながら独り言ちる。


「しかも……色気ないし」


 商品棚を一瞥し、安いボールペンを手に取る姿は


「別に、色気とかいらないから」


 彼女が持っていた安物をひょいっと取り上げ、そっと棚に戻す。

 すると、茉莉は腰元まで届く長髪を揺らし「あれ?」と不思議そうに漏らした。


「買わないの?」

「買う。でも、もう少し高いの」

「ふーん……」


 透明なリップを差した茉莉の唇が、何か言いたげなまま結ばれる。

 視線の先には、今しがた手にしていた安値の文房具。

 どこか含み感じさせる彼女の眼差しが気になり、


「何?」


 と訊ねていた。


「別に。ただ、結構マジなやつ選ぶつもりなんだ……って」

「は?」


 予想外の返答に、思わず出る荒い声。


「いや。まだちなの中でどうでもよくないんだなーって」

「……高いモノを選ぶと、そういうことになるの?」


「違うの?」

「…………」


 首を傾げる茉莉を前にして、反論は出てこず。


「待て待て待てっ」


 さっきのヤツに手を伸ばしたところ、必死な茉莉から制止をくらった。


「今、何を買おうとした」

「コレ」


 顔の傍まで持ち上げたソレに友人が頭を抱える。


「ひょっとして、あたし一緒に来ない方が良かった?」

「さあ? いいんじゃない? 誘ったの私だし」

「もう……なんであたしなんか誘ったのさぁ」

「……あいつに渡すなら茉莉にも何かあげたいなって。だからこの後、茉莉のプレゼント買いに行くし」


 返事に迷ったのか、もにょもにょと結ばれた茉莉の口は一拍おいてから照れくさそうに開かれた。


「……一日遅れで?」

「ん。別にクリスマス当日に渡しておかないといけない訳でもないでしょ?」

「まあ、恋人同士って訳でもなし。それでもいいけどさ? バレンタインはその日の内に渡しなよ? あれと誕生日だけは日を跨ぐと意味ないからね」

「…………渡す理由があったらね」

「はあ……じゃ、とりあえずそのボールペンは棚に戻しな」

「……そう?」

「そう」


 友人の言葉に従い、掴んでいたボールペンを手放す。

 でも、


「じゃ、あたしはもう余計なこと言わないからさ」

「……ん」

「?」


 店の奥へ踏み入る前に、脚は止めたまま茉莉へと目線を投げた。


「ちな?」

「……何か」

「えっ?」

「……こういうの、男の人が喜ぶよみたいなの……わかる?」

「それ、今度から店に入る前に訊いてね」

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