第3話 12月25日(夜にまた、彼女と会うんでしょ……?)
「ほら」
手のひらへ載せられた包み紙には髪を結い上げるようにリボンが結ばれていた。
だから、それがクリスマスプレゼントなんだと……すぐにわかる。
でも、
「……なんで?」
最初に口を衝いたのは、そんな言葉。
続いて、可愛げのない想像まで声になる。
「ひょっとして、彼女に渡し損ねたプレゼントをおさがりに?」
「まさか、違うよ」
「……別にいいけど。私、今日はマフラーを返しに来ただけだから」
「だけ、だから?」
「もらう理由、ないでしょ」
「今日、クリスマスだぞ?」
今日がクリスマスだから。
そんな理由で十分な程、彼の目には私が幼く見えている。
「……本当に、今日はマフラー返しに来ただけだから」
「それは、さっき聞いた」
「そうじゃなくて……私、何も用意してない」
「……プレゼント?」
「……ん」
直後――くしゃりと頭を撫でられて、
「今更だろ。そんな理由じゃ、こっちもあげたい理由がなくならない」
口元が不機嫌に歪む。
今、彼は何も間違わなかった。
そう。今更、私達のこんなやり取りに理由なんていらない。
私は『クリスマスだから』って理由で、彼からプレゼントをもらってもいい。
例え、彼に恋人がいたとしても……私がまだこどもだから。
だから――今年は、クリスマスにプレゼントをもらってはいけない理由がほしかった。
なのに――、
「そうだ、智奈。ケーキあるけど、食べて行くだろ?」
「…………食べる」
――ケーキの甘さは変わらない。
◇
(あ、点いた)
アロマキャンドルから覗く綿糸へと火が灯る。
握っていたライターは机の上へ寝かせ、片肘ついて揺れる火を見つめていると……部屋に、どこか覚えのある香りが花開いた。
(……この香り、なんだっけ?)
瞳を閉じ、真っ暗な水の中へと意識が沈んでいく。
重たい絵の具が溶けながら落ちていくように……ゆっくりと、深く、記憶の底へ。
すると――、
(あ、そっか……)
――底へ着く瞬間、香りの正体を思い出してまぶたを開く。
「……ラベンダー」
(昔、誕生花だからと、花束をもらったことがあったな)
「でも……きっと、あの人はラベンダーがいつの誕生花かなんて、覚えてない」
なんて独り言をこぼしたせいで、キャンドルの火が消えそうに形を変えて揺れた。
慌てて口を覆うと、火はボシュッと小さく文句をこぼし元の姿に戻る。
手の中でほっと溜息を吐き、再び瞳を閉じるが――、
(私は、どうしようかな……)
――心地よい香りの中で、気付けばプレゼントのことを考えていた。
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