24‐8.子狼さんを発見です
『皆さん。シルヴェスターさんとは、一体どのような方なのですか?』
そう問い掛ければ、ティファニーママさんの養い子達は、宙を眺めたり、尻尾を揺らしたりしつつ、各々口を開きます。
『シルヴェスター君はねっ、軍用狼さん達のリーダーの子供で、とっても毛並みが綺麗なのっ。色も綺麗で、きらきらしてるんだっ』
『それからね、口調がシロちゃんみたいに丁寧でね。特に女の子には、とっても優しく接してくれるんだよ。なんだっけ? こういうのって、レディファーストって言うんだっけ?』
『男相手には、もうちょい砕けた感じだぞ。大口開けて笑ったりもするし。それでも、ケルベロスの姉ちゃん達みたいな喋り方は、殆どしないな』
『後、狼なだけあって、走るのめっちゃ早い。皆で追いかけっことかして遊ぶと、あいつだけ全然捕まえらんねぇの。挟み撃ちとかしても、さらっとかわすんだぜ?』
『シ、シルヴェスター君はね、とっても、格好いいんだよ。困ってる子がいたら、すぐに声を、掛けにいくの。ボ、ボクも、何回も、助けて貰ったことが、あるんだ』
皆さんのお話に、成程、と首を上下させます。
聞いた限り、悪い方ではないようです。寧ろ、リーダーさんのご子息で、女性に優しく、運動神経も良く、困っている方がいれば真っ先に手を差し伸べるという、物語のヒーローのような方でした。流石に褒めすぎでは、と思わなくもありませんが、しかし、実際にお会いしている養い子の皆さんがそうおっしゃっているのです。少なくとも、嘘ではないのでしょう。そのような方と、この後お会いするだなんて。別の意味で緊張してきました。
『大丈夫だよシロちゃんっ。シルヴェスター君、優しいからっ。そんなに心配しなくても平気だってっ』
『そうそう。あいつ、他の狼と口調が違うからって、ちょっと遠巻きにされることとかあるけど、喋ってみたら案外普通だから』
『逆に、あいつの方が緊張するんじゃねぇかな? ほら、シロっていいとこのお嬢さんっぽい感じだし』
『あー、それ分かる分かる。でも、女の子を前に慌てるシルヴェスター君とか、それはそれで面白そう。シロちゃん、ちょっとアタシ達と一緒に、ドッキリ仕掛けてみない?』
『ドッキリ、ですか……わたくし、これでも助けられた身ですので、恩を仇で返すような真似は、ちょっと』
皆さん、
『えー、ざんねーん』
と言うわりに、笑っていらっしゃいます。どうやらシルヴェスターさんという方は、これだけ軽口を叩いても大丈夫な方のようです。からかっても許して下さるのなら、わたくしが多少失礼な真似をしてしまっても、受け流して下さるでしょう。そう思うと、ほっと息が溢れました。
『シ、シロちゃん、あのね。シルヴェスター君は、全然、怖くないからね。とっても優しい子だから、大丈夫だよ。ボ、ボクが、保証するからね』
子豚さんが、ぶひんと鼻を鳴らしながら、わたくしを励ましてくれます。すると、他の養い子達が、すかさず
『ボクが、じゃなくて、ボク達が、でしょー?』
『そうだそうだー』
と声を上げ、えいえいと四方八方から子豚さんを突き始めました。
子豚さんは、
『や、止めてよぉ』
と身を捩って笑います。
他の皆さんも、
『やだー』
『許さなーい』
と笑いました。わたくしも混ざって、えいえいと突いて笑います。
一塊になり、途中からおしくらまんじゅうの如く体を押し合って遊んでいると、不意に、子鳥さんがお顔を上げました。
『あっ、ママだっ!』
華やいだ表情に、わたくしも振り返ります。
見れば、騎獣体験コーナーから移動してきた軍用カバさんの集団が、丁度休憩用の広場へ入ってくる所でした。
その中で、一際大きな体のカバさんが、こちらを見やります。あら、と言わんばかりに円らな瞳を瞬かせ、それから、大きな口でにこりと微笑みました。
途端、養い子の皆さんは、一斉に駆け出します。
『ママッ、ママーッ!』
『ママおかえりーっ!』
『お疲れ様ーっ!』
跳ねるようにして、ティファニーママさんの元へ向かいました。
そんな皆さんを、ティファニーママさんは、笑顔で待ち構えます。飛び込んでくる子供達を、ひとりひとり受け止めては、優しく頬を寄せました。
養い子に囲まれて、ティファニーママさんは、皆さんのお話に耳を傾けます。疲れていらっしゃるでしょうに、嫌なお顔一つしません。ただただ愛情たっぷりに接されています。
『流石はティファニーママさん……相変わらず素敵です』
ほぅ、と尊敬と憧憬を込めて、溜め息を零します。それから、わたくしもティファニーママさんにご挨拶すべく、遅ればせながら走り出しました。
休憩を終え、わたくしは養い子の皆さんと共に、わくわくふれあい広場へ戻ってきました。
『お、シルヴェスター発見ー』
『おーい、シロー。シルヴェスターいたぞー』
子狐さんと子狸さんが示す先を見やれば、そちらには、銀色の毛並みを持つ子狼さんがいらっしゃいます。
『ど、どう、シロちゃん? シロちゃんを助けてくれた狼って、シルヴェスター君だった?』
子豚さんの問いに、わたくしは大きく頷きます。
『はい。あの方に間違いありません』
養い子達は、安心したようにほっと息を吐きました。
『見つかって良かったねー』
と笑う皆さんに、わたくしはお礼を言うと、踵を返します。
『では、早速行ってきますね』
『うん、いってらっしゃーい。もし何かあったら、あたし達に声掛けてね。ここら辺にいるからね』
ありがたい申し出に、もう一度お礼を伝えてから、わたくしは子狼さんの元へ向かいました。
すると、近付いてくるわたくしに、子狼さんが気付きます。あ、とばかりに耳を立てていました。どうやらあちらも、わたくしのことを覚えているようです。
『あの、こんにちは、子狼さん。先程は、ありがとうございました。お陰で助かりました』
『あぁ、いえ、お気になさらず。あの後、大丈夫でしたか?』
『はい。ケルベロスのお姉様方のお陰で、事なきを得ました』
『そうですか。それは良かった。一応、姉からも話を聞いていたんですが、少し心配だったんです。姉は、少々大らかな所がありますから。なので、あなたの口から直接聞けて、良かったです。安心しました』
目を細める子狼さんに、わたくしも口元を緩めました。
『あぁ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。わたくし、シロクマのシロと申します。海上保安部第一番隊の特別遊撃班に所属しています。どうぞよろしくお願い致します』
『これはご丁寧にありがとうございます。私は、シルヴェスターです。陸上保安部第三番隊に所属する軍用狼見習いです。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします』
お互い自己紹介をし、頭を下げ合います。
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