8‐2.ラブロマンスです?
「さーて、シロちゃん。レオンはんちょが戻ってくるまで、俺達はどこにいようかねぇ?」
わたくしを床へ下ろし、リッキーさんは考えるように首を捻りました。その拍子に、黄色く染められた髪が横へと流れます。つなぎのまっピンクと相まって、そういう配色のインコさんのようです。
“第三番隊の飼育舎方面はどうだ? あそこには確か、軍用のカバ達が使う運動場があった筈だ”
隣にいたアルジャーノンさんが、スケッチブックへ素早く書き込んでは見せてくれます。
“シロを思い切り走り回らせてやるのもいいだろうし、他の動物達と触れ合わせてやるのもいいだろう”
「あ、それいいかも。小さい頃から色んな人や動物と関わった方が、将来人見知りしにくくなるっていう話もあるしねー」
“それに、シロは自分以外の動物と殆ど会ったことがない。丁度いい機会じゃないか?”
「じゃー、そうしよっか。シロちゃーん、これからシロちゃんのお友達の所に行くからねー。良い子達ばっかりだから、皆で沢山遊ぼうねー」
わたくしのお友達とは、一体どなたのことでしょう? 話を聞く限りでは、第三番隊さんの所にいるカバさん達と、これから会うようですが。
カバさんと言えば、海上保安部のマークにもなっている動物です。シンボルに起用される位なのですから、何か
軍用の、ということは、あれでしょうか? カバさんも、海上保安部の隊員さん達と共にお仕事をされている、ということでしょうか? よく分かりませんが、同じ軍に所属する動物同士、仲良くして頂けると良いなと思います。
そうしてわたくしは、リッキーさんとアルジャーノンさんに連れられて、カバさん用の運動場があるという方面へと、歩き出したのですが。
「あ、あのぉー……」
そーっと近付いてきたお嬢さんお二人に、つと足を止めます。
「んー? 何ですか? 俺達に何か用ですかぁ?」
リッキーさんが、不思議そうに小首を傾げます。アルジャーノンさんも、はて、とばかりに目を瞬きました。
雰囲気からして、お二人のお知り合いというわけではないようです。ならば、何故こちらのお嬢さん達は、見ず知らずの相手に、それも、特別遊撃班の班員に、声を掛けてきたのでしょうか? この短時間でも、腫物扱いをされていると十分伝わってきましたので、不思議で仕方ありません。
わたくし達に見つめられるお嬢さんお二人は、気恥ずかしげに指をもじもじさせています。頻りに目配せもし合っています。まるで、
「ほらー、言っちゃいなよー」
「えー、でもー、まだ心の準備がー」
とでも言わんばかりです。
ここでわたくし、ピーンときてしまいました。
きっとこちらのお嬢さん達は、リッキーさんかアルジャーノンさんに、ホの字なのです。
あらあらまぁまぁ、どうしましょう。
そうですよね。いくら特別遊撃班と言えど、リッキーさんもアルジャーノンさんも、中々整ったお顔立ちをされていますもの。お仕事だって出来る方々ですし、なにより人となりは非常に優れています。若干気になる部分はございますが、誰しも欠点の一つや二つあるもの。些細な問題でしょう。
それで、どちらなのです? お目当てはリッキーさんですか? それともアルジャーノンさんですか? あぁ、どうしましょう。なんだか胸が躍ります。
わたくしもうら若き乙女ですので、こういった恋愛の話には興味津々ですよ。特別遊撃班内ではそういった話も出てきませんし、レオン班長も浮いた話の一つもありません。そう考えると、わたくし、このような現場に立ち会うのは、生まれて初めてと言っても過言ではないでしょう。
「あれ、どうしたの、シロちゃん? お尻ふりふりしちゃって。お姉さん達が気になるのー?」
“幼い子供は、若い女性に強い興味を示す傾向にある。己を可愛がってくれる存在だと、本能的に察しているのかもしれないな”
「あー、そういうのあるって聞くよねぇ」
いえいえ、違いますよ。わたくしはただ、これから起こるであろう、めくるめくラブロマンスの予感に、喜び勇んでいるだけなのです。
『さぁさぁ、お嬢さん方。遠慮なくお目当ての殿方にお声掛けして下さい。なんでしたら、これからお茶でもいかがですか? 楽しくお喋りをしつつ、自然な流れでデートのお誘いをするのもよろしいでしょう。流石に告白はまだ早いかと思いますが、しかし、思ったが吉日という言葉もございます。今だと感じたのならば、迷わず言ってしまうのもありかと。もし勇気がないのならば、わたくしも付いていって差し上げますよ。傍で見守っておりますので、どうぞ思い切って、思いの丈を打ち明けて下さい』
うきうきしながら、お嬢さん達を見比べます。
すると、わたくしの促しが良かったのか、お嬢さん達は顔を見合わせ、頷きました。覚悟を決めた顔付きをされています。自ずとわたくしの胸も高鳴りました。
さぁさぁ、この後一体どうなるのでしょうか。カップル誕生ですか? それともまずはお友達からでしょうか? あぁ、わくわくが止まりません。ですが、ここで急かすような真似をするのは、無粋というものでしょう。
わたくしは、何気ない風を装いつつ、さり気なくお嬢さん達の近くへと寄ります。例えシロクマの子供でも、一匹いるだけで心強さは変わるでしょう。わたくし、普段からお役に立てることは少ないですが、傍に寄り添うのは得意ですよ。万が一結果が伴わなかった場合も、この自慢の毛で癒して差し上げますからね。なので、心置きなくぶつかっていって下さい。
「あ、あの、私達、第一番隊で、事務を担当している者です。いきなり声を掛けてしまって、すいません」
「いきなりついでに、こんなことを言うのも、なんなんですけど……」
お嬢さん達は、若干頬を赤らめ、口を窄めました。ちらちらとお互いを見て、
「言う?」
「言っちゃう? どうする?」
とばかりに、もじもじしていらっしゃいます。非常にもどかしいですが、しかしこの時間もまた良いものです。わたくしも思わず一緒にもじもじしてしまいます。
ですが、いつまでもこうしているわけには参りません。あまり悠長にしていては、レオン班長が戻ってきてしまうかもしれませんからね。邪魔者がいない内に、思いの丈を伝えた方がよろしいでしょう。
ファイトですよ、お嬢さん。わたくしは、邪魔しないようお行儀よくお座りをし直し、お嬢さん達の発言を、じっと待ちました。
数拍の間を置いてから、お嬢さん達は、また頷き合いました。そして、
「じゃあ一緒に言おうね。せーのっ」
と、ばかりに、胸元で拳を握ります。
そして、頬を赤らめながら、半ば叫ぶように、口を開きました。
「っ、も、もしよろしければ、その…………そ、そのっ、シロクマちゃんをっ、撫でさせては貰いませんかっ!」
「お願いしますっ! もうさっきから、ずーっと可愛いって思っててっ!」
………………あらぁ?
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