銃の居場所
想像してみたんだ、私のデスクの抽斗には拳銃が入っている。って。
もしそうだったら、私の人生に何が起こるんだろう?
嫌いな上司を撃つだろうか? いや、そうでも無いな。衝動的にぶっ放したとして、その後に起こるよしなしごとを思うと気が進まない。
誰かが酷い目に遭わされている時に助けに入るのなら? その使い道も難しそうだ。咄嗟の出来事で狙った相手に命中させられる自信が無いし、助けたかった相手に流れ弾が行くなんてもっと酷いことになりかねない。では、来たる時に備えて射撃訓練をするとしたら? にしても、そんなことを秘密裏に行えるような場所や余分な弾薬の心当たりなんて無かった。
というか、そうだ、弾だ。銃を撃つには弾が要るが、販売元なんて見当も付かないし、よしんば探し当てたとしてイリーガルな何者かと関わり合いになるのは確実だろう。あるいは自作するという手もありそうだが、素人制作の火薬をこめて発砲する……というのは想像するだけでもゾッとした。私は私の手先の器用さをそこまで信じられない。
そんなわけで今の自分の人生に銃があっても、大した意味は無いのだなあ、と結論付けた。銃にも銃の、相応しい居場所が有るということなのだろう。そして、それは私の手許では無い。
と、いう訳で私は遺品整理中の実家から転がり出て来た拳銃を、さっさと警察へ届けてしまう事に決めたのだけれど。
語り終えた私は足元の、血まみれでうずくまっている若い子――恐らくは十代かそこらの――を見下ろす。別に私自身が手を下したわけじゃない。通りがかりに見かけただけだ。
「例えば君みたいな人のところにも銃は居つくのかもしれないね」
何故そう思ったかと言えば、さぞかし凄惨な暴行を加えられたのだとひと目でわかる様相であるのに、その眼光がまったく獣のように殺意と気力をみなぎらせたままだからだ。
「とりあえず弾薬についてはさっきも言った通り、この一箱っきり。いや、ごめん一度だけ試射をしたんだ。でもそのおかげで何はなくとも「撃てる」ことなら確認済みだ。細かい調整は必要かも知れないが、そこは君次第って事で……なに、何十年と放置されていた一戸建てに転がっていた代物だ、元の持ち主ももう居ないか忘れ去られた代物だろうさ。で、どうする? これ、要る?」
ひざまずいた私は、油紙の包みを開いてその子の前に差し出した。
『コイツは何を言ってるんだ?』の表情が解けて、目まぐるしく思考が巡っているであろう様を、私は眺めている。その子の決断を、ただ待つ。
テーマ:【銃】
【37分】
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