俺達のエピソードは小学生時代まで遡る
何故、俊が春野に惚れて超ハイスペックイケメンへと変貌したのか……その物語を語る上で、まずは軽く俺達の出会いの時から語るとしよう。
俺と俊が出会ったのはちょうど俺が小学校に上がる頃ぐらいだ。こちらに越してきた俊一家、近所への挨拶がてら、同年代の子供がいるという情報を聞いたのか、俺のいる家を訪れたのだ。
「は……はじめ……まして……夏川……俊……です……」
俺とは真逆のボソボソとした小さな声で、ほぼ聞き取れないような自己紹介をした。しかも、この頃の俊は、やけに伸びた前髪のせいで目元が隠れて表情が分かりづらい。もう見た目は完全に根暗でボッチな今で言う陰キャだった。
ちなみに、妹の如月も一緒に挨拶に来ていた。如月は俊と違い可愛らしい表情がちゃんと見えていたが、あの当時人見知りが激しくて、涙目でずっと母親の後ろに隠れて一言も喋らなかった。
まぁ、兄妹揃って俺とは真逆の性格で、これは仲良くなるのは難しいと思われがちだが、俺がグイグイと積極的に話しかけた。何故かよく分からないが、あの当時の俺は、こいつとは仲良くなれると確信していた。その結果、俊は徐々に俺に心を開いていくようになり、いつの間にか俺達はお互いに親友と呼べるような関係になっていた。ちなみに、如月の方もある出来事がきっかけで俺と話せるようになった。そのエピソードについてはいつか話せる場があったら語るとしよう。
こうして、俊と親友と呼べる間柄になってから数年が経ち、俺達が小学校3年生になった時だった。俺達のクラスに転校生がやって来たのだ。そう。その人物こそ……
「春野 麻里奈です。よろしくお願いします」
春野が俺達のクラスに転校してきたのである。その時のクラスの反応は今でも鮮明に記憶に残っている。クラス全員が春野の美少女オーラに惚けて固まってしまった。流石の俺も「こんな美少女が現実にいるもんなんだなぁ……」と呆然としてしまったし……特に、俊はその瞬間から恋に落ちたのか、春野を見つめたまま完全に固まってしまっていた。
新たに俺達のクラスに加わった春野は、その当時はまるで天使のような愛らしさから、『天使』と言われ男女問わず、皆春野に夢中になっていた。そう言えば一部の先生も夢中になっていたなぁ〜……。通報した方がいいレベルで……。
そんな春野を遠巻きで見ていた俺達だったが、ある日俊が
「岩ちゃん……僕……本気で春野さんの事好きだ……」
最初から薄々は気づいていたが、ようやく俊は自分が春野に惚れている事を俺に告げた。が、告げた後で俊が項垂れるように肩を落とし
「けど……今の僕じゃ……アッサリ振られるだけだ……」
確かに、俊は前髪で目元を隠し表情が分からず、人見知りが激しく、クラスで話しかける人は未だに俺しかいない。根暗でボッチな陰キャで、うるさい・バカっぽい・ガキっぽいと言われ、あの当時から女子から嫌煙されていた俺より、女子人気が低かった。どう考えても、あの当時の俊が告白して付き合える確率は0%だ。
「……でも……僕……!頑張って春野さんに並び立てるような男になりたい……!」
相変わらず、前髪のせいで目元は見えないが、俺には分かった。俊が本気の瞳をしていた事を。その瞳がメラメラと燃えていたことを!
「岩ちゃん……!お願い……!力を貸して……!無茶なお願いなのは分かってるけど、僕が頼れるのは岩ちゃんしかいないんだ!岩ちゃん!僕を!春野さんの隣に並び立てるような男に……!!」
親友になってから数年、俊が初めて俺に向けた熱量のある言葉に、胸を打たれた俺の返事は一つしかなかった。
「おう!!もちろんだ!!俺に任せておけ!!!」
俺は当然了承の返事を返した。こうして、俺は俊を春野の隣に並び立てるような立派な男にする為に動き始めた。
とりあえず、男友達の伝手で春野の情報をいくつか入手した。春野は何人かに告白をされているが、未だに誰の告白も受け取っていない事が分かった。更に、春野の好きなタイプが「男らしく優しい人」というのが判明した。
それらの情報を参考にしながらも、まずは隣に並び立てるような見た目になる必死があるだろうと思い、俺は早速有名スタイリストである母さんを頼った。忙しい人だし断られるかと思ったが
「前から俊君はちょっと整えるだけで化けると思ってたんだよなぁ〜!」
母さんは一目見た時から、俊をコーディネートしたいと思っていたらしく、アッサリと俺達の頼みを引き受けてくれた。
そして、母さんが俊をコーディネート始めて数時間後……現れた俊を見て俺は驚愕した。
前髪を切って、初めて見たとも言える俊の顔は、兄妹故か如月似た愛らしさもある中性的な顔立ちをした甘いマスクをした美少年の姿がそこにはあった。母さん曰く髪の毛を少し整えただけらしいが、それだけでここまで変わるとは……俺はこの俊を見ただけでイケると確信した。
それから、母さんのコーディネートにより俊は見事なまでの美少年に変貌したが、それでもまだ春野の隣に並び立つには足りないと感じた俺達はそれはもう色々な事を頑張った。
まずは、人見知りが激しく人と話すのが苦手なのを克服する為、井戸端会議中のおばちゃん達との会話に強制的に混ぜる荒療治を行った。
次に、学力も運動神経もいい春野に並び立つ為に勉強も頑張った。と言っても、元々俊はそれなりに頭が良かったのでこれは問題なかった。俺は頭が悪いのでこれは俺ではどうにもならなかったが、俺に勉強を教える事で更に学力を上げたようだ。俺の頭の悪さが幸いしたが、ちょっと凹んだ俺だった……
そして、問題は運動神経だ。残念ながら運動神経は俊は悪かった。これは俺の出番だと思い
「俊!!特訓するぞぉ!!!」
と、宣言して俺と俊の2人きりの特訓が始まった。
ある時は、自宅から少し離れた裏山の頂上まで走って登り
ある時は、春野が溺れた事を想定して、人形を抱えながらかの水泳特訓をし
またある時は、各球技の千本ノックのような要領でガンガン俊に球技を鍛えていった。
正直、こんな某昭和のスポ根漫画な事してどうかしてるとしか思えなかったが、それだけ俺達は真剣だった。このスポ根特訓のおかげか、俊の運動神経みるみる上がり、体育で俊は目立つ活躍を魅せるようになった。
こうして、俺達がやった事が身を結び、俊は中学生に上がる頃には、女振り向くだけで女子がそのイケメンフェイスにクラッとして倒れる程、ハイスペックなイケメンに成長したのである。運動も勉強も完璧で、人見知りも改善され、誰とでも話せるようにもなった。
が、先の話でも分かるように、高校2年生になった今でも俊は未だに春野に告白出来ないでいた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます