俺の親友は『女神』の登場に固まる

  俺達の前に女神を思わすような微笑みを浮かべて現れたのは、その微笑みのように『女神』と呼ばれている俺達と同じ学年の女子生徒、春野はるの 麻里奈まりなだ。

  彼女はその『女神』の呼び名に相応しく美しく、更に勉強もスポーツも優秀という、まさに完璧パーフェクト美少女である。同じ高校で同じ学年でハイスペックイケメンの俊と、完璧美少女の『女神』春野がいる事で、入学式はちょっした騒ぎにもなった。


「おう!春野!おはよう!」


「はい。おはようございます。秋本君」


俺は片手を軽く上げて挨拶をすると、春野はそれはもう男子女子見た者を骨抜きにするような微笑みでそう返してきた。現に、周りで俺達を遠巻きで見ていた生徒数人が骨抜きになって倒れてるし……

俺もあの事情がなかったら他の生徒と同様に骨抜きになっていたかも……危ない危ない……さて、その頃我が親友のハイスペックイケメン親友はというと……


「…………」


春野の登場時点で既にカチコチに固まってしまっていた。思わず俺は、額に手を当てて「あちゃ〜……」と呟いて溜息をつく。

  とにかく、流石に挨拶ぐらいはさせないとマズイと思い、俺は軽く肘打ちで俊の脇腹を突っつき


(俊!挨拶!挨拶!)


俺が耳元でハッと我に返った俊は慌てた様子で春野に挨拶をする。


「おっ……!?おは……!?おはようごじゃいます……!春野さん……!!」


めちゃくちゃ声が上擦ってる上に噛んでるよ……さっきまで挨拶をされて爽やかに微笑み返して、女子を気絶させていた奴とは思えないな……


「ふふふ……秋本君と夏川君は相変わらず仲良しですね」


「おう!なんせ、俺達は小学生時代からの大親友だからな!なっ!俊!」


「えっ……!?あっ……!?うん!!」


春野の言葉に俺がそう返して俊に振るのだが、まだ放心状態が抜けてないのか、俊は若干遅れて返事を返す。そこはすぐに返してくれないと俺達の親友関係が疑われるんだが……


「本当に……羨ましい……」


春野は小声でそう呟いて「生徒会の仕事がありますからこれで」と言って足早に学校へと向かって行った。なんというか、颯爽と立ち去る姿まで絵になるってすげぇなぁ……

   で、ふと隣の俊を見ると……その場でしゃがみ込んでいたので、俺は思わず驚愕する。


「岩ちゃ〜ん!春野さんやっぱり今日も尊いよぉ〜!!でも、やっぱり今日もまともに喋れなかったよぉ〜!?」


とても、さっきまで自信に満ち溢れた感があるハイスペックイケメンとは思えない、涙目を浮かべ涙声で俺にそう言う俊に、俺もその場にしゃがみ込み


「大丈夫だ!俊!まだ次がある!ファイトだ!ファイト!!」


と、必死で俊を励ますように声を上げていたら、俺が俊を泣かしたと思われ、先生に職員室まで連れて行かれ、俊と共に色々伏せながら事情を説明する羽目になった。

  もう察している人もいるだろうが、俊は春野に惚れている。それも、小学生3年生の頃からずっとである。


  そして、この俊の恋心こそ、俊がここまでのハイスペックイケメンになったきっかけである。

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