ペロペロ
へりぶち
胡乱文芸部ワンドロ練習お題「目の前に、ありえない姿の死体が転がっていた」
目の前に、ありえない姿の死体が転がっていた。
すこし外に出ただけで汗がふき出る夏真っ盛りの真昼間。
大学生で夏休みの真っ最中で実家に帰省していた俺は、母にせっつかれ飼い犬であるブルドックのブルちゃんの散歩に出ていた。
なぜクソ暑い夏の、更にクソキツい真昼間に犬の散歩をさせるのか俺には分からないが、母が言うには「ブルちゃんはこの時間帯でないと散歩を渋るのよ」との事である。
絶対に嘘だ。
なぜならば隣のブルちゃんは、ヘッヘッと忙しく対応調節のため呼吸をしながら迷惑そうにこちらを見つめてきたのだから。
だがしかしここで「ブルちゃんが迷惑そうな顔をしていた」などという理由で家に帰れば、母に掃除機で地味に足の小指をガツガツとぶつけられる未来が見えるので、大人しく20分ほど木陰を選びつつ散歩をする事に決め、覚悟を決めて帽子をかぶり直した。
家を出てすぐの坂を下り左に曲がると街路樹が植えられた通りがある。そこの通りにあるマンションの近くには自動販売機があるのでそこで冷えた水を買う。
マンションの入り口をすこし借りて買った水を飲もうとキャップをひねると、どこからか香りがしてきた。
とろりとしていて、甘い香り。
バレンタインによく嗅ぐ香り。
夏に嗅ぐには、少し重たい香り。
その香りがする方向に顔を向けるとある小さな公園が見えた。
そのなぜだか妙に気になる香りに誘われ向かい、こんな公園あったかなぁなどと思いながら周りを見渡す。
塗装の剥げていない真新しい遊具がある。なるほど新しく作られた公園かと納得し、ここら辺も随分変わったなぁと目を細めるとそこには倒れた人がいた。
慌てて近くに駆け寄ると、奇妙な点に気がついた。
そう、死体の穴という穴から噴き出しているのである。
穴という穴からチョコレートが噴き出す女性死体が転がっていたのである。
チョコレートが、噴水の如く。
「わぁ、チョコレートファウンテンだぁ」
目の前の出来事に訳がわからずフリーズしていた俺の後ろから小さい男の子が駆けてきてはジュルジュルとすすり始めた。
俺も小さな頃は拾い食いをしたものだが、これはさすがに域を超えている。
小さな男の子を止めようとするが体が言うことを聞かない。
その瞬間理解する。
このチョコレートは蜜なのだ。
自分が隣でチョコレートを啜る男の子の頃。
カブトムシを捕まえる為の蜜。
年々人が少なくなるこの土地が呼び寄せた蜜。
俺はこの後大学を辞めることになるだろう、そんな予感がする。
俺は、この土地に戻ってきて、それで、結婚して、土地を守るために子を作るのだろう。
あぁ、そんな予感がするのに膝をついてしまう。
舐めてしまう。
このチョコレートを舐めるだけの人生の幕開けだ。
ペロペロ へりぶち @HeriBuchi1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます