【架空の長編で世界観や設定の説明が粗方おわったタイミングに出すようなエピソード】
「うおおおおおおお!?」
「のぅ勇者よ、そろそろ諦めて儂を握ったらどうじゃ?」
「だから! 無理!! だって!!」
――――時は1時間ほど前に遡る。
次の街、クラバトブルグへ向かう道中のこと。
すっかり道に迷ってしまった俺達は、森の中みつけた洞穴で休憩しようとしていた。しかし見つけた穴には先客……いや、先住民がおり、うっかりその尻尾を踏んづけてしまったがために、今こうして夕焼けを背に逃げ回る羽目になっている。
「俺は魔剣を握らねぇ、絶対にだ!」
「何度でも言うが、魔剣を握らぬ剣士がこの世の一体どこにいるというのじゃ。今こそ儂の力を披露する絶好のチャンスなんじゃがなー、あーあー」
追ってくる魔物は全長20mはあろうかというサイズで地を這う亜竜である、なるほど確かに、魔剣が力を見せつけるには一番の状況だろう。特に、隣を走るコイツはかの大悪竜モーガンドルを討った竜殺しの魔剣である。初陣としてこれ以上適した相手はおるまい。
「駄々を捏ねられても俺には無理なんだって! というかなんで魔剣は人に化けれるくせに自分じゃ戦えねーんだよ!」
「そりゃあ剣じゃからな」
「でしょうねぇ!!」
倒れた木の幹を飛び越えて叫ぶ。たしかこの少し先には川があって、それから――――
「あっ、崖」
気付いた時には遅かった。
足を止めれば死、さりとて足を踏み出せば死。文字通りの崖っぷちでなんとか方向転換し、崖沿いに走るしか生きる道はない。
「曲がれぇぇぇぇ!!」
「うわぁそんな急に剣を曲げてはいか、あっ」
そう、遅かった。
足を滑らせたラルムがそのまま崖に落ちかけてしがみつく。
「あー、もう! 手ぇ放すんじゃな……あっ」
今にも泣きそうな顔で
そう、いくらコイツが幼い子供のような風貌をしていようと、魔剣は魔剣である。多少雑に扱ったところで、人間と違って死にやしない。この程度の高さの崖はなんてことはないはずであり、落ちたところで後で迎えに行けばそれで済む話である。
「チッ、気付きおったか」
「演技下手だからな、お前」
「あっ、これ、置いていくな~~~~!! 魔剣は寂しいと死んでしまうぞ~~~!!」
30年も洞窟の奥でほったらかしにされてた奴がなにか叫んでいるが、ガン無視して走り直す。それなりに大回りになるが、安全に下まで降りる道があったはずだ。いや、道と言えるような道ではないのだが、そこはあれだ。人が歩けばすべて道、道なき道を歩んでこその人であるとは、偉大なる開拓者コットー・ワイルドの言葉である。
そう思って坂を下っている最中のこと、進行方向から人影あり。見たところ女性の一人旅といったところか、いやその腰には一本の剣が見えるので魔剣との二人旅かもしれない。
「お~~い、そこの君、今すぐ逃げた方がいいですよ~~~……ってあれ?」
逃げるよう促そうと思えば、逆に彼女は足を速めた。そのまますれ違い、数秒の間を置いて背後からドーーーーーーーンッ!! と、巨大質量が地面に叩きつけられる音がする。
「えっ……」
一撃だ。
振り返れば亜竜は一刀両断、頭をカチ割られて倒れ、返り血を浴びた先ほどの女性は平然とした表情で、またこちらに向かって歩いてきている。
「全く、危ないところでしたね。お怪我はありませんか? 一人で帯剣もせずに森を歩くなんて不用心ですから、気を付けてください。ここからだと……スマエ村の方でしょうか。帰り道、お送り致しますよ」
にっこりと優しい笑顔で接してくる彼女は、よく見ればサンセルト王国の騎士章を付けていた。なるほどそれは強いわけである。
「ギャアアアアアアアアアア!!!!」
「……? ああ、これは返り血ですからお気になさらず。そんなに驚かなくても……えっと……はい、これで顔が見えましたか?」
ちょっと悲しそうな顔を隠して顔をぬぐい、腰を抜かした俺に手を差し伸べる女騎士。しかし俺はそれに対して、指をさして後ろを示す他返せなかった。
「――――こんの大馬鹿勇者がああああああ!!」
直後、俺の脳天にラルムの鉄拳――鉄剣、の方が正しいか――が突き刺さった。
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