【薬】をテーマにした小説
「やっぱりか……」
安物のキーボードを叩いて確信する。公衆通信回線から侵入した堂下通商のサーバーには、これ見よがしに最高機密と銘打ったファイルがあった。
そこに示されているのは重嗜好性煙草、グリーンファシリティの工場へ入荷している原材料リストだった。
――――“
発見者マリオ・プリガトリオのユーモアでこの名が付いた別名フェイクタバコとも呼ばれるその植物は、ニコチンと同量、依存性・毒性ともに非常に高い成分が含まれている。15年前、東南戦争において少年兵の洗脳に用いられた他、自白剤としての有用性も確認された……つまるところ、ドラッグである。
現在は無許可で所持・使用すると犯罪であるほか、許可を取った上でも特例薬物税という税金が課されることになっている。最も、最大の利用者である軍はこれを免税されるので果たして大きな存在意義があるのか疑問ではあるのだが。
少し前まで公衆放送回線に流されていたグリーンファシリティのプロモーション、貧民街の路地裏にまで張り出されていた販売会のポスター。社長が脱税で捜査を受けていること。おそらくこれで全てが繋がった。
さて、折角知りえた情報である。ならばこれを然るべきところに持ち込めば幾らかの金になろう。電子化された時代になっても、週刊誌はいつだってスキャンダルに飢えているのだ。
ガサリ。
適当に放られたビニール袋が音を立てた。
風に吹かれて? いや、違う。今日の天気予定では無風であるはずだ。即ちこれは誰かがそれを踏んだ音。
バレたか?
あり得る。使っているのは遅くて制約もある公衆回線だ、幾らかこの環境でできるだけの対策はしたが、地域を割られることは覚悟していた。だが早すぎる、それも公衆通信回線の仕組みからして絞れても半径50mはあるはずだ、そこでこんなピンポイントに自分の居場所を特定できるか……?
「――――止まりなさい」
足音よりも少し遠いところで声が聞こえた。凛とした女性の声だ。
「チッ」
足音の主は足早に自分の背後から去っていく。どうやら彼女の威圧が効いたらしい。
振り返ってみればその女は小綺麗なパンツスーツ姿で、こんな薄汚い場所には不釣り合いに見えた。
「お前さん、何者だ?」
「……警察。そうね、あなたには感謝しているけれど……不法情報領域侵入罪の疑いで署までご同行願いましょうか」
感謝している? 何をやれば感謝されるのだろうか、警察に。
そも、警察がなぜこんなところまでやってきたのだろうか。ここはパトロールもまともにされない掃き溜めの地区である。だからここを選んで侵入していたのだ。この国の警察が気まぐれでそんな真っ当な仕事をするわけがないであろうと思うが。
「それから、今開いてるその画面は保存して。証拠品として押収させてもらいます」
なるほど。どうやらこのポリさんは堂下通商の秘密を握れるということで感謝しているらしい。ならば、自分――34歳・求職中――がすべき交渉は一つである。
「いいけども。自分を雇ってくれたならもっと有用な情報を引き出して見せますよ」
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