【空が見えない場所】をテーマにした小説
「明日の天気予定は曇り、最高気温は23度、最低気温は15度となっています」
ジャンク街で買って来たブラウン管テレビに公衆放送回線をつなぐと、聞き飽きたテンプレートな天気情報が流れる。貧乏人は旧世紀の遺物を使ってないと、この程度の当たり前な情報すら手に入らない。不便な世の中になったものだ。
新聞という報道形態が完全に電子化されて久しい昨今、紙に残るのはいずれも過去の記録ばかりである。一時期は全情報の電子化が叫ばれたが、8年前に起きた文化情報財消失事件以来、非電子的媒体での記録というものも見直されている。
かくいう自分は、その事件の当事者だ。当時の情報庁から仕事を受けていた、所謂ゼネコンと呼ばれる企業に勤めていた。
8月6日午前8時半頃、唐突に文化情報財のサーバーがクラッシュしたのだ。あらゆるログを漁っても予兆は一切見つからなかった。何者かが一発でセキュリティをブチ破りでもしなければこうはならないのだが……内部犯によるものと考えるのが、現実的と言わざるを得ない。
兎も角、それをきっかけに勤めていた会社は一気に傾くことになった。自分はその時のリストラ組である。
ぐるぐると適当にチャンネルを回して、目に留まったら安酒を開ける。今流行りの嗜好品といえばグリーンファシリティと呼ばれる新種の巻き煙草だそうだが、どうにも匂いがキツすぎて合わなかった。感性が年取った証拠なのだろうか。
「ん?」
そんなことを考えていると、丁度そのグリーンファシリティに関するニュースが流れて来た。
「グリーンファシリティを製造する堂下通商の社長、堂下筒治氏が脱税の疑惑で警察の捜査を受けている件について、市民による抗議デモが起きています」
――――市民による?
それは普通に考えて信じがたい話であった。いくら流行りものだからといって、製造元の社長の脱税捜査でデモが起きるだろうか。
デモの様子を空撮した映像では、警視庁前に群がる大勢の人間が映っていた。
製造の継続を憂う気持ちはわからなくもないが、いくらなんでも反応が行き過ぎている。
……このニュースは些か、自分の興味をそそった。
グリーンファシリティを巡って、一体世の中で何が起きているのか。
生憎、今は貧民街で
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