【その指先は、まっすぐに始まりの方へ向けられていた】から始まる小説
その指先は、まっすぐに始まりの方へ向けられていた。
果たしてその意味に最初に気付いたのは、意外にも荷物持ちのニーシャだった。
「もしかして、なんですけど」
前置きを一言。
「この洞窟、入り口は海の方を向いてたっすよね?」
「確かにそうだが」
「あっ」
まるでピンと来ない様子のオズワルドに対して、エリザは意味するところに勘づいたようだ。
「……そう、この洞窟は確かに複雑に入り組んでたっすけど、考えてみれば不自然なところはいっぱいあったっす」
「うん。人が通れない隙間、手の届かないところにある穴、銀の湖……思い出してみたら、全部繋がってる」
「繋がってるだぁ? 一体どういうことだよ」
不機嫌そうに足を鳴らす。確かにそういったものはあったが、ただの偶然ではないのか。
魔物退治では腕の立つ冒険者なのだが、察しが悪いのが玉に瑕の男である。
「方角っすよ。この洞窟の入り口は、日が昇る海に向かってるんす。つまり――」
「日の出の光はこの石像の指先を照らす。それこそが、アーマイト村に伝わる秘宝の鍵なのよ。きっとね」
「きっとって、お前な……像の指先に光が当たって、どうなるっていうんだよ」
一見すると、この目の前にある石像には何の仕掛けもありそうにはみえない。強いて言うならば、爪がすべてルビーでできていることくらいだが……それが一体何だというのか。
「オズワルドさん、宝石魔術を知らないっすね~?」
「は? 馬鹿にしてんじゃねぇぞ、そのくらいわかるわ俺にだって」
「違うっすよ、多分。宝石を触媒に使う魔法じゃなくって、宝石に起こさせる魔法っす」
「そりゃあどういう……」
「まぁまぁ。明日、夜明け前にまた来てみましょう。それで全部わかるはずだから」
未だ腑に落ちない顔の戦士一人を宥めながら、魔法使いと荷物持ちはアーマイト村に戻っていった。
翌日。
言った通りの時間に3人は再び洞窟を訪れ、同じように最深部の石像の前にいた。
その像は変わらず、指先をまっすぐ
「――――もうすぐっすよ」
3人には見えない外、水平線の向こうからゆっくりと太陽が昇る。
神話に曰く。
太陽神クロッソルは世を包む闇を祓い、昼の民の時間を作る役目を担っている。その闇祓いの瞬間こそが日の出であり、熱のマナが一斉に起き上がる時なのだ。
故に、最も新鮮なるマナは日の出の刻にありとして、これと共に1日を始める儀式とする風習は形が違えども各地に存在している。
「多分、むかーしのアーマイトの人達は……あるいは、この洞窟に住んでいた人達にとっては、この石像の人は神様だったんじゃないかな」
「神様だぁ? 聞いたことねぇぞ、こんな変な神」
「今に残らなかったんでしょうね。でも多分、この石像はそういうこと。1日の起点を示す時計であり、熱のマナを呼んで、貯め込むための魔術具。それがこの、"始まりを指さす石像"の正体よ」
夜明けとともに差し込んだ光が、銀の湖を跳ねて穴と隙間をかいくぐり、石像の指先を灯す。
すると、うっすらとした明かりが石像に文様を描いた。その線の端には爪となったルビー――熱のマナが好んで寄り付く――がある。
「なんだ、こんな明るかったのか、ここ」
「そうっすね~、そんなに長持ちはしないと思うっすけど、ここにいた人達にとっては大事で貴重な明かりだったんでしょうねぇ」
石像を中心に、洞窟の床に仕掛けられていた魔法陣が起動する。それらは壁を伝い、天井を歩いて、いくつかの蛍光石を光らせる。その光が磨かれた壁面を照らし輝かせ、水溜まりが煌めいた。
「……綺麗ね」
「そうっすねぇ、それだけ大事なものだったんすね、日の出は」
見渡したところで、最早人が生活していたような形跡は残っていない。だが、確かにここには、人が仕込んだ魔法があったのだ。
「で、秘宝ってのはどこにあんだ?」
「えぇ……」
「ほんっとわからない奴ねぇ、アンタは!」
3人は(正確にはそのうちの2人は)暫く洞窟の奥の光景を眺めた後、去っていった。
その天井からは、祝福の神オーホウを示す星座が見送っていた。
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