夜の珈琲
成亜
【目の前に、ありえない姿の死体が転がっていた】から始まる小説
目の前に、ありえない姿の死体が転がっていた。
「被害者は、えー30代OLの鈴木美知佳さんです」
「……酷いな」
通常あり得ない死体だ。いや、通常どころじゃない。
どうしたらこんな、胸に真円の穴を開けた死体ができるというのだろうか。
「こりゃ……どう見ても、アレだな」
「アレ……? どういう意味っすか先輩」
「こんな死体、物理的にそう作れる代物じゃぁない。俺達の手に負える事件じゃねぇ……特例案件だ」
「えっと、なんでしたっけ、それ」
「お前、知らないのか? まぁ、関わらずに済むならそれに越したことはないんだが」
特例案件。
このような、物理的にあり得ない死体が見つかった場合、捜査一課では取り扱い切れないとして専門の部署に担当が移る。
それが、警視庁生活安全部保安課特異事例対策係。
『特例案件』の通称の所以でもある。
そのようなことを説明していると、気が付けば死体の側でしゃがみ込む女性がいた。
「――貫通。他の外傷はなし。これなら一撃でいいだろう」
「っ、相変わらず耳がはえぇこったな信楽警部」
「ああ、いつも世話になってるよ池田巡査部長」
立ち上がって襟元をひと撫で。悪人面の笑みを浮かべる女の手には、小さな黒い物体が付いていた。
「発信機付けやがったなこいつ!? いつだ、朝ン時か!?」
「便利なもんでね。捜査は初動が肝心なんだろう? ご協力頂いたまでさ」
「はぁぁ……ったく」
この女――――
特例案件の時だけならいいものの、異常などどこにもない普通の事件にも首を突っ込むから手に負えない。
「さて、今回は正式にウチで引き取っていい事件だ。好きにやらせてもらうよ」
「いつも好きにやってるだろ……まぁいい。ガイシャの素性は聞いてたんだろう? さっさと心当たり調べてくれ」
「いや。それには早い」
そういうと、信楽は遺体に開いた穴のふちに指先で触れた。
「あっおい!」
「やっぱり。匂いでも思ったが、焦げてるな。これは斬られたのではない、とすると……」
ああ、これだ。ぶつぶつと訳の分からないことを喋りだした。こうなると、俺達にはわからない話を展開されてしまう。
「下村、撤収だ」
「えっ、いいんすか」
「いいだよ、無理だ無理、どうせわかんねぇよ魔法だなんだなんて」
「え、魔法?」
部下が首を傾げるが、まぁ仕方あるまい。
特例係とは、そういうもんだ。
◆
「
「みちか? なんか聞き覚えが……なんでしたっけ」
「それは恐らく、妖精少女ミチカのことだな。15年前に引退した魔法少女だよ」
「あっ、そうそうそれです! 私、小さい頃ファンだったんですよね」
「ああ、瀬戸は丁度世代か」
「だから苗字なんてよそよそしい呼び方しないでくださいよ。ライチって読んでください」
警察官と呼ぶには若い女性――瀬戸
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