第一章 カラヴィナ風雲編
1.私が主君です
声が聞こえた。
静かで、張りつめた声だ。
「私のことが、見えていますか」
音声信号と光学情報を認識する。
人間、女、
長い髪と目は黒、肌はやや黄色、服は白、身長は平均数値よりやや高い。
「あなたは私の剣……私の手足、私の力。従いなさい、私が主君です」
右手をあてて、胸を張る。少しこちらを見上げている。
腰に装飾品、
白い衣服は
「ぶっ……あっはははは! ちょっと、なにそれ? すっごいカッコ良いじゃん!」
別種の音声信号だ。
右後方に、もう一人いる。
周辺情報を
「……最初が肝心と言ったのは、先生です」
「そりゃ言ったけどさ。いや、良くできました、ほめてる! 自分で考えたの?」
「反省します。もういじらないで下さい」
口の両端が少し下がる。
不平、不満を表す所作だ。
人間に関連する
「ごめんごめん。じゃあさ、本題に戻るけど、どうなのよ? なんか反応はあった?」
正面、光学情報の感知範囲に、もう片方の一人が加わった。
やはり人間、女だ。
髪は短く金色、肌は白、目は、
「表示も無線機も反応ありません。本当に、人間の言葉を知覚できているんでしょうか」
「んー、そのはずなんだけど、結局は推定の範囲だしね。駄目だったら他の方法を考えるよ」
「私、恥のかき損ですか」
いくつか意味の不明瞭な文脈を除いて整理統合すると、どうやら、こちらに意思の疎通を求めていることが推測できた。
思考過程を再構築して、電位信号波に乗せてみる。
264回目の試行に反応があった。
「なんか言った?」
「いえ。先生こそ」
「応答を確認した。情報伝達をこの方式に固定する」
「えっ? ちょっと、これって……」
「頭に、直接……」
「個別認識を明確にしたい。また、こちらの状況認識は限定的で、外部からの補足情報が必要と判断する。この行動は、相互の目的に合致している」
二人がこちらを見たまま、動きを止める。
情報処理に時間を要している、と推測する。
回答を待つ間、周辺情報の収集を試みるが、音声信号も光学情報も微弱なものが多い。
静かで、暗い。
一つだけある光源は、二人を下方から照らしていた。
「私は、ジゼリエル=フリード」
黒髪と、左腰に
「フェルネラント帝国で
「ええと……うん! ちょっと表情硬いけど、美人でしょ。花も恥じらう17歳! 可愛い動物と甘いお菓子が大好きで、こう見えてけっこう……」
「先生」
「ごめん、場をなごませようと思って」
「認識した。呼称はジゼリエルで問題ないか」
「ジゼルで良いよ。あたしはユーディット=ノンナートン、ユッティって呼んで。この
「認識を更新した。ジゼルとユッティ、よろしく頼む」
ジゼルの口の端がまた下がったが、訂正は入らなかった。
「いやあ、正直びっくりしたよ。こんな風に話せるんだね」
「話す、というのは正確ではない。言語を
「そっか、
「それがこちらを示す呼称と認識して、問題ないか」
「あなたの言葉を返せば、正確ではありません」
ジゼルが一歩、進み出た。
「あなたは
「該当する情報が見つからない。共有は可能か」
「んー、まあ、特別な機械ってことよ。
「文脈が不明瞭だ。適切な行動を選択するには、適切な背景情報の認識が必要と考える」
「なんか、理屈っぽい子供を相手にしてるみたいだけど……仕方ないわねえ。ほいほい、と。入力したから、確認して。わかんなかったら、わかんないでも問題ないわよ」
「先生」
「解読は可能だ。協力に感謝する」
大枠で情報を整理する。
生命には、
生命は、その開始点に
生命が
魂が物質に付随して生成されるものではないのだから、熱量を吸収した魂が戻るところ、新しい生命のもとへ魂が発するところに、物質空間とは異なる魂の
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