9回目 Wild Flowers

よう、トナカイオレだぜ。

最近急にトナカイオレ達の群も増えてきてにぎやかでいいことだぜ。しかも奴らはずいぶんと出来がいいみたいじゃねえか。なにせ食料の確保が上手うめえ。今までトナカイオレらがやってたような、地面の中のコケ共を探すやりかたとは全然違うぜ。木でできた角ばった洞窟みたいな場所によ、魚やら木の実やら蓄えているじゃあねえか。

トナカイオレも真似してみようと思ったがうまくいかねえ。うまく物資が運べねえしあの洞窟みてえなやつも作れねえ。なにかが足りねえみたいなんだ。そうしてよく新顔たちの方を見てみればなんだか前足の隣になげえ、柔らかそうな足がついてる。不思議だがこの足は普段は地面についてもいねえし、蹄がさらに柔らかそうでしかも数が多いんだ。トナカイオレたちも日々進歩してるようでうれしいぜ。



よう、トナカイオレだぜ。

最近はトナカイオレたちの暮らしも変わってきた。昔は冬はちょっとでも暮らしやすくて、食い物のある土地を目指して何日も何日も歩いたもんだった。だが今はどうだ。簡単に雨風をしのげる寝床がいくつもいくつも設置してありやがる。これもあの足の多い新顔の連中のおかげだ。連中は木を角で折り倒して削り、あの柔らかそうな足で組み立てて寝床をいくつもいくつも用意してるんだ。そういう寝床は作った八のものだろうに、連中は親切に譲って、自分の分は後回しにしていくつもいくつも作ってるんだ。これは大したことだぜ。だがよ、こうやって安穏とした生活を送っていると、何かが足りねえって思うんだ。いったいこの気持ちはなんだ……?トナカイオレはどうしたっていうんだ?



よう、トナカイオレだぜ。

突然だがトナカイオレは今の群れを外れて旅に出ることに決めたぜ。別にメスを取られたとか、今の群れが居心地が悪いとかじゃあねえんだ。新顔……もう新顔とは言えねえ。あいつらは群れの中心だ。あいつらは自慢の仲間だぜ。今ではなんだかわからないものを作り始めて、トナカイオレたちの暮らしはもう、食べ物をさがすってことすらしなくなってよくなった。どこへも歩かず、ずっと同じ場所で暮らしてられるようになった。だけどよ、こうも思うんだ。


トナカイオレの角は食べ物を探すためのものだった」

トナカイオレの足は大地を駆けるためのものだった」

ってな。

…………トナカイオレの考えが間違ってるってこたあわかってんだ。誰だって安心して暮らしてえ。苦労せずに食い物が手に入るならそれでいい。そうじゃねえか?


トナカイオレはそうじゃなかった、それだけのこった。

じゃあな、あばよ群れのみんな。トナカイオレトナカイオレの赴くまま、歩いていくとするぜ。




お題「バイオテックトナカイ」で1時間



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