6回目 距離感
好きだった女の子が男の子になった。
何を言っているかちょっとわからないと思うのでもう少し説明を足させてほしい。
女の子は中学の同級生で俺はその子のクラスメイトで、まあそれなりに話す。ゲームの貸し借りぐらいはしたこともある。その子は人気者だから俺はその子の特別な何かではないが、ちょっとした友達だとは言っても問題はなかろうと思う。
そんな距離感の子だ。その子が、ある日男性化手術を受けたという。
皆、その日いきなり聞かされたようだった。だれかが事前に相談されていたという話は聞かなかったし、俺の目が腐っていたのでなければ、みんな純粋に驚いていたように、俺には見えた。
始めに思ったのは「なんで」だった。何か困っていたのだろうか、とか。何か悩みがあったのだろうか。とか、そんなことだ。
俺は臆病だったからなんでそういう決断をしたのか直接訪ねる勇気がなくて、「男性化手術を受ける人の動機」をネットで調べた。
自分の体の性と自分の性の認識が合致しない人というのがいるらしい、というのはわかった。あるいは今の自分の性に満足していない人がいるらしい、ということがわかった。またあるいは知的好奇心で、という人が要るらしいことがわかった。
結局こんなことは臆病が臆病である言い訳だということがわかった。
意を決して聞いてみた。さすがに超個人的なことだったから、昼間の教室で聞かない程度の配慮は出来た。
その子が帰るときに声をかけ、帰り道で二人で話したのだ。
当時を振り返るに、急に振り切れて妙な勇気が湧きだしていたものだと思う。
「女の子が好きなんだ」
と、その子は教えてくれた。俺の恋は複雑な折れ方をした。
恋が折れたら折れたで浅ましくも気持ちが動くもので、道中色々な話をした。
で、「男としてたまに相談を受ける」といういいポジションを確保しやがった。
俺の恋は複雑な折れ方をしたけど、複雑に折れ曲がって結局その子に向かって伸びたままだった。
その子との―――もうお互い子ではない。
彼との交流はまだ続いている。俺の折れ曲がった恋心だけは悟られていない。
彼と俺の距離がどうなるのか、俺はもうどうにもわからないが、ただ彼とまだ話せていたらいいと、思うのだ。
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