4回目 空色
「どうして青色のことをを空色というの?」
幼いころの私は母にそう聞いたことがある。
「昔はね、お空は晴れていて、一面に青が広がっていたのよ」
そのときの母の答えは幼い私にはよくわからなかった。
いや、正確に言うと今もわからない。私は「晴れた空」というのがよくわからないのだ。
私だけでなく、私と同じかそれより若い世代はみんなそうだ。私たちは灰色の空しか知らない。
その竜が宇宙を越えて私たちの星にやってきたのは、私が生まれる20年前だったという。当時の防衛軍の戦力をすべて燃やし尽くし、この星をその体で包んだ竜は、さらにその体の下に分厚い灰色の雲をもたらした。
竜の目的は星を改造して自分の拠点としてふさわしい環境にすることらしいと、研究者たちは発表した。竜自身は何も言わなかった。ただ、竜が厚い雲で星を覆ってからは、それまで見たことのない動物・植物・成分が星のいたるところで発見されるようになったそうだ。
今も竜に抵抗している人たちがいるらしいという噂を聞いたことがある。その人たちの話をするとき、大人たちは「希望をもて」という意味を込めて私たちにその話をする。
希望も何も。
そう思っていた。私も、その日までは。
轟、と、熱い風が街に吹きすさんでいる。風は街の外から断続的に私たちを煽った。その日の空はいつもより黒々と私たちを包んでいたのに、私が感じていたのは明だった。
空に黒い竜の化身たちが飛び交う。そしてそれに立ち向かう、異様が、大きな火花を幾度も幾度も散らしていたからだ。
異様は巨大な鋼だった。鋼は巨大な人型をしていた。ただの人ではない。見る者の心を熱く、熱く燃やすような、岩を削って作り上げたような、剛力の人型だった。
熱は街中に伝染する。一人が声を上げた。
「がんばれ」
十人が声を上げた。
「負けるな」
百人が声を上げる。
「そこだ、行け!」
私も熱狂の中にいた。ただただ人型に声援を送っていた。
熱狂が最高潮に達した時、人型が天を目掛けて指を差す。見たこともない巨大な光が人型の掌にあつまり、それが竜の化身たちに放たれた。
閃光は竜を燃やし尽くし、上昇、上昇、上昇、雲を突き抜けて、そして。
「あれは――」
誰かが声を漏らす。雲の向こうに、突き抜けた先に光があった。それは人型の出した光ではない。もっと遠く、もっと巨大だ。光が巨大な青の中に浮いていた。
その日私は初めて「希望」を知った。
希望は、空色をしていた。
お題「空の見えない場所」で1時間制限。
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