2回目 妖精に尋ねるーーある国の話
この森があった場所はかつてある国家がある場所だった。
森に迷い込んだ俺に妖精がきまぐれに教える。
ほら底を見ればお城の石壁の名残、あちらを見れば講堂の、あちらを見れば井戸の跡。
森には迷ってきたのだけれど、土産話の収穫が欲しいと思った。妖精に昔話を聞いたとなれば少しは手向けになるだろうか。
それに話を聞いているうちに道もわかるかもしれない。なんとなればこの土地の話を聞くわけだから―――
俺は腰を据えて妖精に尋ねる。ここにあったのはどんな人たちが暮らしていた国だったのか、と。
昔々のお話。ここに木々が生い茂る前、この場所が山でなく丘で、我らの先祖のそのまた先祖、そのさらにさらにさらに先祖の時代。
ここには小さな騎士の国があった。
その国の騎士たちは自分たちの武芸を極めることに熱心で、妖精の声に耳を傾けることはしなかったけれど、その逆、妖精を迫害することもしなかった。
騎士たちが鉄の武器を打ち付け合う音を、妖精たちはただ眺めているだけだったが、それはまた一つの音楽のようで聴いていて新鮮な音でもあったのだ。
騎士たちは武芸を愛し、その国の女たちは鉄を鍛えた。
その国は戦闘国家ともいうべきものだった。国が一個の「戦うもの」として自分たちを定義し、その性格をより高めていっていた。
なぜ戦っていたのか、妖精にはわからない。ただ、その国では音楽や絵画は生まれなかったし、美しい庭園を生み出すこともなければ、美味なる料理を生むこともなかった。
この国に住む者たちは戦うことしかできなかった。戦って、奪うことでしか「よいもの」をもたらすことができなかったのだ。
この国は一匹の餓えた獣のようであった。
この国の最後はやはり戦いだった。
一匹の獣は、多数の人間の軍勢に押された。
これまで獣が収奪を繰り返してきた国々からの反撃だった。
一個一個の武芸では獣の技には劣るものの、数がひたすら多かった。
一匹では多勢に勝つことはできなかったのだ。
最後の一人の武器が地に落ち、体がくずおれるのを、妖精は見ていた。
「ああ それが ほしい」
それが最後の言葉だったとさ。
この国には奪う価値のあるものがなかったから、騎士たちが倒れた跡には誰も手を付けなかった。城も街も放っておかれて、人もいつかず、妖精たちだけが残り、そしてこの森が出来上がった。
俺は妖精の話を聞き終えると森を見渡す。
鉄の打ち合う音は聞こえず、ただ妖精たちのさざめきだけが耳を打った。
確かに、見るものは何もないようだ。
加藤達也「あなたと踊る妖精国家」からインスピレーションを受けて。
題名に反した殺伐と血風吹きすさぶような曲調が印象的です
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