習作置き場

@hakkoutai0934

1回目 架空の日食説話

目の前に、ありえない姿の死体が転がっていた


俺は目を疑う。いつもは輝きを放ち、目を焦がしさえするその姿が今日に限って真っ黒にくすんでいる。


死体であるのはいつものことだ。俺が運ぶうちに死体は生き返り、そして俺が運び終え、もう一人の番が来ると死体は死体に戻る。そういうものだった。


しかし、輝く死体を運ぶのが俺の仕事だというのにこれでは俺は仕事を行えない。


俺は頭を抱え、あてもないまま、帰ってきたもう一人に尋ねた。


「俺の死体が黒ずんでいる。これでは輝きを運べない。どうしたらいいだろう」

「ふむふむ、ならば新しい輝きを見つけるしかないだろう。知っているだろうか。あの偉大な川にはまだ見ぬ輝きがあるらしい。川でかわりの輝きを探して来てはどうか」


なるほどそれはいい。助言に従い俺は川に来た。しかし探せども探せども輝きは見つからない。

俺は頭を抱え、川の蟹に尋ねた。


「俺の死体のかわりになる輝きがこの川にあるらしいのだがどこにあるのだろう」

「それなら探し方が違うのだ。輝きは川にあるうちは砂にまみれているのだ。いつも輝いていては川を見られないだろう」


なるほど確かに。助言を得て俺は川底の砂玉を拾い上げた。しかしこれをどうしたらいいのだろう。俺は頭を抱え、輝きを待つ天に尋ねた。


「砂玉を新しい輝きにするにはどうしたらいいだろう」

「それならば簡単だ。塗れているのだから乾かし、磨けばよいのだ」


なるほどそういうものか。助言の通りに乾かし磨き、砂玉は新しい輝きとなった。


こうして俺は新しい輝きを運ぶことができるようになった。俺が輝きを探している間世界は輝きを失い、まっくらであったという。これが日食の成り立ちである。


おしまい。

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