045 おちる

「なんか夢見てるとき、落ちるやつあんじゃん。あれなんて言うんだっけ? グ……キ……キー、なんとかみたいな、なんていうんだっけ、スティーブンキング……じゃない、なんだっけ、あれ……ほら……」

「……ジャーキング?」

「あーそれそれ! それだ!」

「それがどうかしたの?」

「いやアレ俺結構なるんだよね。なにが原因なのかなーって思ってさ」

「ジャーキングという単語を一応知っているのにジャーキングの起きやすい状況は知らないパターンの人は初めてかな……いやほら、すごい疲れてるときに入眠するとよくなりやすいよ」

「あー俺運動部だったからな……それが原因かな」

「あーじゃあジャーキングなりやすいのもわかるねー」

「この前の模試のときもテスト中にジャーキングなったからビビったわ。模試の途中に落下する夢見るとか縁起悪いよな」

「悪いのは縁起ではなく君のテストを受ける態度だと思うけど……落ちるよ?」

「受験生に落ちるって軽率に言うなよ!」

「受験生がテスト中に軽率に寝るなよ!」

「じゃあオチオチ試験中に寝てられませんわってオチがついたところで」

「……すb」

「滑るも受験生に禁句だろ」

「ならその単語を誘発するような話題をやめよう。なんの話題がいい?」

「なんの話題がいい? っていうフリも急ハンドルだよな……」

「どんとこい、なんでも落ちるという単語に落としてあげよう」

「最悪だ……えっと……そうだな……受験終わったらどっか旅行行きたいよな。卒業旅行ってやつ」

「観光地にお金落とさないとね」

「迂闊! まあでも修学旅行は京都だったし、それより遠い所にいきたいよな」

「飛行機が落ちないといいね」

「迂闊! じゃあ近場にしてやるよ! 旅行先をよ!」

「いい落しどころだね」

「迂闊! なに言ってもだめなのか!?」

「君が勝手に罠に落ちていくだけだよ」

「迂闊! くそ、何が目的だ!?」

「君の成績が落ちないようにと緊張感を出すためにね」

「ウワー! もうダメだ! 俺の負けです、おしまい!」

「完落ち!」

「トドメやめろ! はあ……よくもまあそうべらべらと出せるな、お前」

「オチのない会話は嫌いなんだよね」

「受験生の敵か、お前は」

「味方だよ、君のね」

「そりゃどうも……AOで受かって余裕がある奴はいいね……」

「ふふん。ところで、卒業旅行だけど。誰と行くの?」

「え? そうだな……適当にいつもつるんでる男連中と一緒にじゃないか?」

「えー……私は?」

「えー……女子じゃん。俺はいいけど女子お前一人だけってのもなんつーか……」

「じゃあ、二人で行こうよ」

「……え?」

「卒業旅行」

「え……?」

「厭なの?」

「厭っていうか……ダメでしょ、彼氏彼女とかでもないのに……」

「じゃあなってよ。彼氏に。なるから。彼女に。落ちてよ、恋に」

「……………………ごめん」

「キシャーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「なっばっ急に刃物やめっぐああああああああああああああああああ!」

「ハア……ハア……ハア……」

「………………………………」

「……落命、ってね」





「――どう? この一週間後の受験生応援会でやる予定のコント」

「先生から雷が落ちると思う」




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