027 人前も羞ぢずに繰り返し

 嫌いな人間のTwitterアカウントを見に行くのをやめたい。石の裏をひっくり返して想定通りのキモイ動きをしているのをわざわざ見に行くようなことをやめにしたい。そう思っている内にいつの間にかお昼になってしまいました。私は未だベッドの上で、普通に今日は学校があります。まあでも私は授業が終わるたびに二分の一の確率で保健室に向かってしまうので、家で死んでいるのと学校で保健室に居るのとそう大差ないんですけどね。私の部屋は実質保健室。保健室にはブラジャーとか睡眠薬が散らばってたりしませんけど。


 ヴェー、ヴェー、ヴェー……これは私の鳴き声です。今までの人生であった厭なことを思い出す度に奇怪な鳴き声を出してしまいます。奇怪な鳴き声は小学生のときからやっていて、こんなことをしている自分は本当に頭がおかしいんじゃないかと真剣に悩んだ夜もありましたが割と陰キャの中ではよくあることらしく、全然異常自慢になりません。「てかウチらの代マジ濃い面子ばっかだからw」という気分にすら浸れないあるある話。ティーンののたまう自らの異常さは、往々にして得意になるには平凡すぎて、普通という集団に紛れ込むには特異なものでしかなく、私もまたその一例でしかないのですね。


 ヴェー。


 ヴェー、という鳴き声なんですが、これは意識してこういう鳴き声にしようとしているもので、ちょっと前までは「セックス!」「ちんこ!」とかその手の単語を過去の恥ずかしい失敗を思い出す度に叫んでいたのですが、先日「セックス!」って叫んだタイミングでお母さんが部屋に入って来ちゃって地獄でした。それ以来叫ぶときは「ヴェー」にしてます。でも偶にデカい「恥の記憶」がやってくると「セ……!」まで言っちゃいます。親が確実に家に居ないときは「セックス!」って普通に叫んじゃいそう。学校に行きたくない理由がその一つで、授業受けてるときに「セックス!」叫んじゃうんじゃないかという恐怖で登校できません。これは半分本当。


 私たぶん普通のJKが一ヶ月に「セックス」っていう回数を一日で消費してる。


 そういう厭な記憶を打ち消すためにSNSを開いてインターネットに逃げるのですが、そこで厭なヤツのアカウント見に行くと無限に時間が溶けちゃうんですよね。そして大してメンタルも回復しないし。ただ無を垂れ流すだけの時間が過ぎてしまう。


 あークソみてえなブログ更新してんな。わざわざ嫌いな奴のクソブログ読んでPV増やすのも癪なんですけどね、見ちゃうもんは見ちゃうから。嫌いな奴のブログだけあって本当にクソでいい~、期待通りのクソ加減、私の報酬系が喜んでしまっている。インターネットやめろ、学校へ行け。自分にそう命令します。するだけで、相変わらず充電器に繋いだスマホをずっといじり続けるだけなんですが。充電器に繋いでるだけ偉くないですか? だって外出するときはスマホの充電は満タンじゃないといけないわけだから、充電器に繋いでるだけ外出の意思があるわけですよ。それに肉体と行動が伴わないだけで。


 クソブログは今日もクソだった。たくさんの人の目が触れる場所に放り込んだらすぐ着火しそうなくらいに内容がクソ。でも書いてる人間がクソだからそもそも人の目に触れない。たぶんPVも一桁だろこんなん。そのカウンター回してる一人が私なんですけれども……。そしてこのクソブログ書いてる当人はちゃんと学校も行っているからな。死ねばいいのに。友達の数は私の方がギリ勝ってるからまだ私の方が上なんですけど。私も死ねばいいのに。


 はぁ~。

 セ……ヴェー!


 クソブログ書いてるクソ野郎は私が教室で芥川を読んでいるときに、ちらと私の方を見て(文豪っぽい描写)、「ああ、あの自殺したヤツw」と半笑いで言ってきたときから大嫌いです。いや別にそこまで躍起になるほど芥川のことは好きじゃないんですけど、とりあえず嫌いになった始まりがそれでした。それだけで他人への好悪を決定するわけではないんですけど、それ以降小さい「こいつ嫌い!」ポイントは高まっていき、そして「ここ好き」ポイントは一切入らないので私の中で大嫌いな人間という登録がなされました。そんなんだから友達居ねえんだよな。私も居ないけど。でも学校行ってるのに学校行ってないやつより友達少ないの致命的だと思いますよ。

 友達の多寡で人生は決まりません!

 これは本当にそう。そうであってくれよ。

 ていうかインターネットなら友達居るから。居るから。


 もう今日学校行かないことは決定したのでスカートを脱ぐ。学校の制服を着るとこまでは成功したんですよ、偉いので。でもそこからやる気を失って現在に至ります。「学校行こうかなー」「でも行きたくないんだよなー」って気持ちのせめぎ合いがあって制服姿のまま今の時間までだらだらしてしまっていた。もう取り返しのつかない時間なので安心してスカートが脱げるってわけ。


 ちょうど芥川のこと思い出したので午後はもう芥川の本を読んでいよう。芥川なら学校サボって読んでても、なんか、こう、いい感じに罪悪感を消してくれそうだし。


 青空文庫を開いて適当にスクロールすると、私の気持ちにいちばん近そうなタイトルがあったのでそれを読む。


「あばばばばばば、ばあ!」


 いや。

 私の方が、芥川を馬鹿にしてるかもしれない。


 セックス!






文字数:2160(本文のみ)

時間:1h

2021/1/5 お題

【著作権フリーの作品から1行引用】した小説を1時間で完成させる

引用元:芥川龍之介【あばばばば】

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