026 セカイと天秤にかけられる適性がない少女たちへ

 とても晴れ晴れとした気持ちで目が覚めました。これが最後の私の目覚めとなるのでしょう。次に眠りにつくときはきっとそれが永遠の眠りとなって、次に目を開いたらそこは天国か、もしくは地獄なのでしょう。尤も、私はそのどちらも信じていないので、次に眠るときが私という意識のおしまいです。


 常々、エッチなゲームのヒロインになれたらいいなと思っていました。いや別にギャルゲーのヒロインでもいいんですが。まあ要は誰かにとって必要とされる存在でありたかった――そうでなくとも、その選択肢のひとつとして私というものが存在できてればそれでもう充分のような気さえするのです。ちなみに私は処女なので、ついぞそういうシーンは人生の中にありませんでした。このセカイはギャルゲーです。そういうことにしておいて。


 いきなり「世界のために犠牲になってくれ」と言われてハイそうですかと飲み込める人間はあんまりいないんじゃないかと思いますが、どうやら私はマイノリティの方だったみたいで、即答とはいかなくてもそこそこ早めに「OK!」と元気よく承諾してしまいました。そんなことを素直に飲み込む奴がいるのでしょうか。まあ私のことなんですけれど。

 世界か少女一人かを天秤にかけて、どっちか選べと言われたらそれは当然少女の方を犠牲にすべきなんじゃないでしょうか。まあこれは単なる損得勘定なだけなので、私がその当事者であるということはあんまり関係ない考えで、じゃあ当事者としてどう思うのかというと「積極的に私を犠牲にしてください!」って思ってます。


 まあ碌な人生じゃないなと我ながら思います。

 あんまりそういう自分の不幸をひけらかすのもそろそろ芸がないなという気分にさえなっています。いや別に他人がやってるのを見てどうこう思うとかはないですが、結局そういう不幸は世の中に溢れているんだなというのが、二十年にも満たない私の人生で知ったひとつのことです。不幸自慢をすると私よりもスゲー不幸な人間が寄ってきて私よりスゲー不幸を言っちゃうのでダメでした。不幸自慢でも天下をとれない程度の不幸な少女です。不幸としても微妙な私の不幸な生い立ちによって、多少なりともチヤホヤされなかったと云うと嘘ですが、それ一本で食っていけるほどのものでは決してなく、それ一本で食っていけるほど不幸な子はみーんな自殺してしまいました。あはは!

 だからといって私が世界一不幸だということにはならないので笑っている場合ではありません。


 だから世界のために犠牲になってくれと言われて私は嬉しくなりました。

 これで本当に世界一可哀想な少女になれちゃうじゃないですか。

 私は本当に幸せな気分になれました。


 私、これでも結構可愛いを顔をしているんじゃないかな、って思うときは何度もあったんですけど、それは私の脳か眼がおかしいだけみたいでしょっちゅうブスブス言われて育ちました。その割には平気で私の体を触ってこようとする人も結構いるのでよくわかりません。まあこのへん、治安悪いですからね、その所為もあるんじゃないかと思いますが、治安のいい世界というものに触れたことがないのでよくわかりません。男だけでなく女の子からも触られるので私は今でも電車に乗れません。この世の人間のすべてから性欲と生殖器がなくなってしまえばいいのに。


 やっぱ世界、なくなった方がいいかもしれないという気分になってきました。

 まあ時すでに遅いんですが。

 そしてやっぱり私は世界のために犠牲になりたいのです。


 私以外の人間から疎まれ続けてきた人生、いい加減飽き飽きしてて、復讐するとかそういう気分にさえなれません。まあ私が断固拒否することで世界の終わりになっちゃうみたいなので今まさに復讐のチャンスなんですが、まあ、めんどいしいいかなって。それよりも私は今人生の中で一番ちやほやされていてそれがすごく嬉しいんです。承認欲求とかいうやつですかこれ、めっちゃいいですね。

 べつだん、私が努力しなくても私はなにかスゲーもののために貢献できるんですよ。私が犠牲になるだけで、私が死ぬだけで、それで全人類に貸しとか作れちゃうのめっちゃアドなんですよね。まあ私みたいに「世界滅べー」ってカジュアルにでもシリアスにでも思ってるような人からはめちゃめちゃ恨まれそうな気がしますが、私はそれでも私利私欲で世界の犠牲になろうと思います!


 まあギャルゲーとかエッチなゲームならバッドエンドなんですけどねそれだと。

 だから結局その方面の才能はないですね、私。

 そもそもそういうヒロインたりえるのは、その天秤から助けてくれるようなイカした男の子とかそういう交友関係がないとダメで、その点私は死ぬほど友達が居ないののでダメでした。「死ぬほど友達が居ない」って本当に言葉通りのことあるんだ。


 そういうわけで私は最後のときを待っていたんですが――。

 まあやっぱり、人生というものはうまくいきませんね。

 私の周りにいた大人たちが一人の少年にぼっこぼこにやられていって、うまく隙をつかれてなんと私は助け出されてしまいました。

 流されてきたまま生きてきたのが悪かったのか、差し出された手をうっかり握っちゃったんですね、私。

 最初はえー、マジー? とか内心へらへらしてたんですけど、落ち着いたら段々ムカついてきました。「折角世界の犠牲になれたのに!」って文句言ってやろうと思ったんですけどダメでした。なんか、私、泣いてたので。


 まあ、でも、それはそれでいいんじゃないでしょうか。

 誰かに必要とされた上で、世界もおしまいになってしまうので。

 よく知らない美少年の胸の中で泣いています。あともう少しで世界は終わるでしょう。それはそれでいいんじゃないでしょうか。我ながらちょろい女ですね。


 次に目を開くときは天国か、地獄か。

 まあ、どちらかは信じてみてもいいんじゃないかな、と壊れゆくセカイのなかで、私はそう思ったのでした。






文字数:2395(本文のみ)

時間:1h

2021/1/4 お題

【犠牲】をテーマにした小説を1時間で完成させる

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