018 妖刀ってあるじゃないですか

 妖刀ってあるじゃないですか、妖刀。

 なんかいっぱい人を切って血を吸ったので呪いとかそういうのが取り憑いてたり、切れ味が良すぎたり美しすぎたりして、手に入れたら兎に角人を切ってみたくなっちゃうみたいな、そういう感じのやつ。

 いやー私だってあんまりそういうの詳しいわけじゃないんで、ふんわり認識ですよ、ふんわり。でも流石にあれは知ってますよ、村正とか。そういうメジャーなやつはね。まあその程度ってわけなんですけど。


 妖刀って実在すると思います?

 あーはいはい、そんな目をしないでください。妖刀とか今日日の女子高生が振ってくる話題か? なーんてのは私も承知の上ですって。オカルトや怪談にしても手垢が付きすぎ、というか時代錯誤? 時代外れ? って感じなのはわかってますよ。

 でも、それは逆に言えばそのぐらい妖刀って概念は認知されてるってことではあるわけじゃないですか。そもそも認知されてなければ手垢がついてるだの時代錯誤だのという感想は出てこなくて、そうじゃなかったら「なにそれ?」「新しい?」「いや聞いたことねーわそんなの」みたいな反応しか返ってこないわけですけど、そうではないじゃないですか。


 え? 調べたのかって? って目をしてますねー。

 まあ調べたっていうか、自分で実際に訊いてみたんですけどね。ざっと10人くらいかなあ。10人にもそんなこと訊いたのかよ! みたいな目はやめてください。


 で、まあ。

 とりあえず妖刀という概念はみんな知っている、と。この場合のみんなは「みんな持ってるからおかーさん買って!」のみんなよりは信憑性があるでしょう。

 で、えーっと、そう、妖刀が実在するかって話なんですけど。

 まあ妖刀と云ってもね、本当にそれに悪霊だの呪いだのとが憑いてるわけないんですよね。いや、「めっちゃ切れ味いい刀手に入れたから誰でもいいから切ったろ!」のパターンは、あり得ると思いますけどね。現代じゃあモノホンのポン刀なんて手に簡単に入らないんだからそんなことはそうそう起きないわけですけれど。


 それじゃあなんで悪霊だの呪いだのが取り憑いた妖刀なんて概念が成立しちゃうかってーと、そういう悪霊だの呪いがあったら辻褄が合うから――なんですよね。


 正しいかどうかじゃなくて、辻褄が合うかどうかなんですよ、大事なのは。


 例えば――カッとなってヤッパ抜いて人を斬り殺しちゃったとするじゃないですか。我ながらすごい仮定ですね。まあ、そうと仮定します。めっちゃ綿密に計画した殺人とかならある程度覚悟完了して殺してるかもしれないですけど、カッとなって殺しちゃったとなれば、気分が落ち着いたらめちゃめちゃ後悔とかパニクるとか、そういう精神状態になるわけじゃないですか。んで、そんで「どうにかして自分に責任がなかったことにできないだろうか」っていう風に考えるのは、まあ、自然ですよね。いや殺したんだから責任とって全部償おう! みたいな気持ちにはフツーならんでしょ。そう思うなら最初から殺さないって。あーでもそう思う人もゼロじゃないかもですけど。なんてったって多様性の時代ですからね。


 うわー、外寒そう。

 めっちゃ雪降ってんじゃん。


 で、どうにかして殺人の責任を余所に押しつけよう! って考えたら、そりゃ悪霊とか呪いがかかってたヤッパでした! ていうオチだったらいいなーとか思いはじめるのは、まあ、あり得そうじゃないですか? ていうか自然ですよね?


 そんな怖い顔しないでくださいよぉ。

 え、じゃあこの拘束と猿ぐつわを解け? って感じの目をしてますね。

 そりゃー解くわけないっしょ。じゃなきゃ最初からそんな拘束しないって。


 あー大丈夫っす。

 殺しませんって。

 まあまあ、もうちょいお話聞いて。折角JKとお喋りする少ない機会なんだから。

 まあ猿ぐつわしてるから私が一方的に喋ってるだけなんですけどね。


 で――えーとそうだ、責任の話か。

 殺した後でそんな風に思うのがあり得るとしたら――殺す前からそう思うのもあり得ると思いません?

 どういうことかってーと、殺しちゃった後で「この刀は妖刀だ!」って思っちゃうのがアリだとしたら、殺す前から「この刀は妖刀なので、うっかり手に入れた自分は誰か殺しちゃっても仕方ない!」って思うのもまあ、そんなに無理がある筋の話ではないですよね?

 まあこう聞くと「そんなこと思うわけなんだろ!」って感じなんですけど、まあ、殺したいほど憎んでるとなると、そう思っちゃうこともあるんですよ。感覚としては――そうだなぁ。「夏休み最終日で、夏休みの宿題ビタイチやってないけど――まあなんとかなりそうじゃね? 忘れてきましたって云えば、数日くらいは?」みたいな気分っていうか。

 冷静に考えればそんなわけないけど、その時の当人の中では成立しちゃってるんですよね、理屈が。


 実際私がそうでしたし。


 まあでも実際問題「この刀は妖刀です!」ってそこら歩いてる人に適当な刀渡しても「うわー妖刀だー人を殺しちゃっても仕方ないねー! バサー!!!」ってはなりませんよそりゃ。だから条件を整えないといけないわけですよ。


 例えば。

 なんか黒ずくめの和装をした怪しい少女が。

 雪の降るある日にやってきて。

 いかにも曰く付きでござい――って感じで凶器を置いていって。

 そして自分には殺したいほど恨んでいる人が居るとしたら。


 ――どうなると思います?


 いやー実際ね、苦労したんですよ。

 いくらこのあたりが治安悪いからってね、殺したいほど憎んでる人が居るなーって分かる人なんてそうそう見つけられないわけですよ。いくら私の顔が広くっても。

 精々、10人ってところなんですよねえ。


 あと黒ずくめの和装なんて超目立つじゃないですか。

 まあでも今冬なんで。

 和装して、袴をずり上げて固定して、下にはタイツ穿いてダッフルコートとか着れば、そこら出歩いても普通に女子高生にしか見えないでしょう?

 頭? いやいまは金髪に染めてますけど、ウィッグとか使えばどうにでもなりますって。


 そんであと、日本刀とか手に入らないわけじゃないですか。

 だからまあ、ってことにしたんです。妥協して。まあホームセンターとか行けば鎌とか鉈とかその程度のものは手に入るし。それに一本くらい日本刀混ぜとけば、それっぽくなるかなって。

 いや流石に美術館とかからパクるのは無理ですよ。

 剣道の大会やってるところとかが狙い目なんです。

 大会によっては開始前に型の演舞? みたいなのをやるんです。昇段審査とかだと木刀使うんですけど、大会の演舞とかだと刃引きした日本刀とか使うんですよね。そういうのが狙い目なんす。

 まあ当然刃引きしてあるんで、凶器にするには無理矢理砥石で研いで刃物にするしかないんで、本来の切れ味は出せないんですけど。

 いやあ、素人の、しかも包丁の砥石じゃもう酷いことになったんですけどね。持ち主の人にはホントごめんって感じ。


 で、これがその日本刀。

 とりあえず、鶏肉とかは切れましたよ。


 さっきも云ったじゃないですかー。

 殺しませんって。

 私は――ですけどね。


 なんでこんなことしているんだ? って目をしてますねー。

 まあ、ぶっちゃけ10人程度じゃ妖刀なんて呼ばれませんよね。だから私が本当に殺したい人を殺しても大丈夫なようになるまでいっぱい色んな人に妖刀を作り出して語って貰わなきゃならないんですよ。10人程度じゃ全然だめ。


 頭おかしい?

 自分でもそう思ってますよー。


 さて、そろそろお話はおしまい。

 じゃああとは別の人に引き継ぐんで。

 え? 誰が来るんだ? って目をしてますねえ。

 それくらいはわかるでしょう。


 あなたを殺したいほど憎んでいる人くらい、心当たりがあるでしょう?






文字数:3091(本文のみ)

時間:1h

2020/12/27 お題

【刀】をテーマにした小説を1時間で完成させる

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