017 時間・量子干渉・偏在汚染の三次元ラグランジュポイント

 今から私が述べる説明は、間違っています。

 より正しく云うのならば、


 ラグランジュポイント――というものをご存じでしょうか。

 ああ、詳しく知っている必要はありません。とりあえず、宇宙空間にある二つの天体同士の重力のつり合いが取れる、重力的に安定しているポイントということがわかっていれば問題ありません。いい感じに重力が釣り合ってる場所――とか、その程度の認識で大丈夫です。

 ところで、重力というのは、しばしば磁力と同様に例えられます。ああ、統一場理論とかそういうのは置いといて、「なんとなく力の示し方とか磁力と重力は似てるよね」程度の理解で大丈夫です。高校物理程度での話をすると、万有引力における位置エネルギーを求める式と、クーロンの法則における点電荷の電位を表す式は似ていますよね。え、物理とってない? すいません……。

 まあとにかく言いたいことは――ラグランジュポイントというのは天体同士の重力だけでなく、電荷をもつもの同士でも理論上は発生しうる――そして、電磁気学だけでなく、似たような力の振る舞いをする物理現象において同様のポイントは成立するだろう――ということが言えます。


 さて、ここで話は少し変わります。

 普段の日常において、時間というものは過去から未来へと一方的に流れていくものとされています。まあ、直観的には当然ですね。あ、一応言っておくとここでいう過去と未来は一般的というか日常で使用する語彙の範疇としての過去と未来であり、この場合の説明においても同様の意味とします。

 過去と未来を行き来するというのは容易いことではありませんが――、まあその難度についてはここで置いておきます。例えば、この部屋に傷一つない綺麗な林檎がまるまる一つ置いてあったとします。これを例えば一時間前の過去に戻り半分にカットしたとします。そして現在に戻るまでに、この林檎に対して誰も干渉しなかった場合、現在の林檎も同様にカットされた状態になりますよね。なるんだって。なるってことにしておいて、話が進まないから!


 過去への干渉によって現在の事象を操作するという、SF作品では手垢が付きまくったものですが――実はこれと逆のことも可能なのです。つまり、現在時点での現象をとある状態に操作し、それをもって過去へと遡及し干渉する――ということも可能なのです。いや、可能になったってこの前証明されたんですってよ。

 つまりどういうことかというと、例えばさっきの説明と同様に傷一つない林檎がこの部屋に置いてあったとします。この林檎に特殊な処置を施し、【過去へと因果を遡及させるカット】を行ったとします。すると林檎は半分にカットされ、それより一時間前の状態にまで遡り、【一時間前から林檎は半分にカットされていた】という操作が遡及される――ということが可能だということです。いや勿論この操作は単に過去に戻って林檎をカットしてくるよりも簡単にできる操作ではないんですよ。そもそも過去に戻ることが難しい? それはそう……。


 まあとにかくそういう過去方向にも未来方向にも遡及して操作ができるということがふんわりつかめればOKです。

 で、ですね。

 この未来へ遡及する操作と過去へ遡及する操作の純粋な干渉力の振る舞いは、先ほど説明した重力や磁力と似たような式で表すことができるのです。

 未来か過去へと遡及させて結果を操作する事象の干渉力は、位置エネルギーや電位を表す式と似たような形になるのです。

 具体的にどういうことになるかというと、一時間前の過去から未来へと【林檎を半分にするカット】の遡及と、一時間後の未来から過去へと【林檎をすり潰すとジュースにする】という遡及の操作を同時に行ったとします。この二つの干渉力は近しい時空間ほどそちらの結果へと近似していきますが、ちょうど力のつり合いが半分半分の場所では二つの干渉を受けた結果が平衡状態になり、ある種の安定状態を取ります。これが時間・量子干渉・偏在汚染の三次元ラグランジュポイントと呼ばれます。


 はい、当然の疑問ですね。


「カットするのとジュースにする事象が平衡状態になっているってどういうこと?」「というかその平衡状態じゃなかったら30%はカットで70%はジュースみたいなことになるのか?」とかその辺りの疑問はすぐに出ますよね。

 この点についてはずっと疑問のままで居てください。

 これからもずっと、理解しないでください。

 現状の疑問を抱えたままの理解で居てください。

 


 あなたが認識している、学んできていた物理法則からは導けない結論であることは確かですが――実はある意味、これも正解なのです。

 この理論は間違っていると思いますか?

 この理論は間違っていると思えますか?

 であるならば重畳。あなたは大丈夫です。


 この二つの遡及する干渉――まあ二つ以上でもいいんですが――の安定するポイントを仮にTQIラグランジュポイントと呼称します。このポイントを観測しようとしたとき、観測する世界線は本来観測すべき世界線とは必ず異なってしまいます。そして観測結果の出力データは別の形――データ形式とか拡張子とかそういうくくりですらなく、まったく異なる形として出力されます。

 今この時間・量子干渉・偏在汚染の三次元ラグランジュポイントに関するセミナーは、VRウェビナーという形で講義しているつもりですが、参加者の方はこの講義を物理的な対面であったり、録画した動画再生という形であったり、可能性もあるのです。


 ああ――そろそろ時間ですか。

 一時間というのも案外短いですね。続きはまた次回にしましょう。


 では最後にひとつ。

 旧神が存在し干渉を行っている宇宙からと、我が機関が設置され干渉を行っている宇宙からのラグランジュポイントをご存じですか?

 そうですね。これはこの講義を受講している以上は常識でしょう。


 基底宇宙――地球がラグランジュポイントです。


 みなさん、ちゃんと理解できませんでしたね?

 理解してしまったときは、【対処】されてしまいますよ?


 それでは次回まで、ごきげんよう。




                ウェビナー講師  姿スガタ亜理寿アリス





文字数:2516(本文のみ)

時間:1h

2020/12/26 お題

【ラグランジュポイント】をテーマにした小説を1時間で完成させる

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