012 お前たちは俺の大切な家族だ
お前たちは俺の大切な家族だ、って酩酊した上司が言う。最近の家族のトレンドは家族にアホほど残業させることらしく、なんと僕は今月80時間も残業しました! 上司からの愛をたくさん貰ってすくすく育っちゃうな~。人間は月の残業が70時間を超えると鈍い頭痛がし始めるという知見を得ました。
安いチェーンの居酒屋のテーブル席では酩酊した管理職と僕と同僚二人。本当はもうひとりここにやってくる筈だったのが、一次会のあとの移動中にちゃっかり消えていた。大学時代にもっと参加したくない飲み会のフケ方を学んでおけばよかったな。人生でいま一番「あのとき勉強しておけばよかった……」的後悔をしている。はさみうちの原理とか媒介変数表示とかより大切なものは人生にはいっぱいある。
月80時間ともなるとトイレ行くのも気合いが居るんですよね、数少ない休憩時間だから。催してもいないのに便器に跨がってスマホで求人情報を探る日々。月残業約10時間と謳われている求職情報を見る度にええ~ほんとにござるかぁ~? と心の中で疑っている、心が叫びたがっているんだ。ここさけ、ここさけ、心が裂けちゃうよぉ……A-1 Picturesのみなさんごめんなさい。
気が付くと謝る必要も無いなにかに謝っている毎日です。
お前次飲まないのか、と上司が訊いていくる。あーえっとそっすね~と言いながらラミネート加工されたメニューを手に取る。グラスを空けたままにしておくと結構な声量で上司に怒られます。大人の世界って厳しいなぁ。怒られたくないので、僕はお酒が残り1/4になったらもう口をつけません。只でさえ薄い居酒屋のジントニックは氷が溶けてほとんど水になってしまった。まるで僕の人生みたいだね。今の言葉に関して、特に深い意味はなく、関連付いたエピソードなどが特にあるわけではありませんが……。なにもかもが自然と自虐に結びついちゃう。怖いよぉ。
俺はお前らのことを愛している、と上司は言う。はは……と僕はアニメのヒロインがするような困った笑顔で取り繕います。実際は成人男性サラリーマンですが。サラリーマンとか嘘。全部嘘。本当のぼくは脳だけ培養液に漬かっていて悪い科学者から悪い電気信号を受けてサラリーマンをやらされている夢を見ている、これが終わったら美少女の体に脳味噌をぶち込んで、爆発しても天パになるだけで、感電しても焦げくさくなるだけの優しい世界に戻るんだ……。
一週間前下請けの会社の従業員が現場で感電死しました。
本社への対応業務が始まると労働者の権利はぶっとぶんですね。いつの間にかサブロク協定に判子が押されていました。なんで僕の判子が会社に置いてあるのかなぁ。準備の行き届いた会社って素晴らしいね。「捺しておいたから!」って笑顔で上司が教えてくれました。シャンプー変えといたから! って自慢気にアピールしてくる同棲している彼氏みたいな顔で、言わないでよネ……!
あー。
ちんこちんこ。
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。あ、やばい、意識が飛んでた、意識が飛んでたのでついドグラマグラの冒頭の物真似を脳内再生しちゃってた。高校時代は楽しかった、電子辞書に青空文庫からダウンロードした小説を入れたSDカードを挿して、辞書で調べるフリをしながら小説を読みあさっていた。あの頃に戻りたい。戻りたい……帰りたい……そういえば最近自分のアパートに戻っても帰りたいって呟いちゃうんだよな。記憶を保ったまま三歳児くらいから人生をやり直したいな。なんか株の動向とか覚えて人生やり直したら楽勝だろ、多分。株の買い方とかよくわかりませんが……。そういう諸々をひっくるめて「帰りたい」だと思うんですよね。この解説はいま咄嗟に考えただけです。
自分が何を望んでいるのか言語化する気力も薄れてきています。
会社の上司から、お前は家族だ、って言われる度に泣きそうになります。嬉しくて泣いちゃうよ。そんなわけあるか死ねボケカスゴミうんこちんこばーか。申し訳なくて泣きたくなってくる、簡単に他人のこと家族と宣うバカタレと一緒の職場で働いてるという事実が両親に対して申し訳なくなってくる。僕にはちゃんと普通に育ててくれた両親が居て、その人のことを無視して簡単に家族だとか言わないでくれ、お前にも家族が居るんだろう? くにへ帰るんだな……上司の
お前らは……家族だ!
今日何度目になるかわからない上司のありがたいお言葉。
もはや怒りも薄れてきて、目に涙があふれそうになることもない。
明日は土曜日だけど会社。日曜日も会社。休日って概念は家族にない。
サービス残業って家族サービスのことらしいです。
またひとつかしこくなったね。
あー。
おっぱいおっぱい。
文字数:2290(本文のみ)
時間:1h
2020/12/21 お題
【家族】をテーマにした小説を1時間で完成させる
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