009 社会をください、サンタさん

 クリスマスが今年もやってくるってあるじゃないですか。歌で。あれ嘘です。今年は私、クリスマスがやってこなかったので。24日の夜に安定剤をハチャメチャに飲んだら気が付いたら26日だったんですよ。悪い子にはそもそもクリスマスの時間がすっとばされてやってこない。第一次世界大戦でもクリスマスはあったのに……。


 友達にすんげーゴスロリの可愛い子が居て、その子のことをゴスロリちゃんと呼んでるんですが、ゴスロリちゃんが死んじゃったのでお薬いっぱい飲んじゃったんですよね。ゴスロリちゃんとこは家族が例によって最悪で家に帰りたくないので、色んな男の人の家を渡り歩いてて、捕まらないときは私の家にも泊まりに来てたくらいゴスロリちゃんと私は仲が良かった。宿代として私んちに海外から輸入した向精神薬置いていくのはハードボイルドすぎるんですがね……。


 ゴスロリちゃんの家族はどいつもこいつも最悪なんですが一番最悪なのはおばあちゃん。ゴスロリちゃんもゴスロリちゃんのおばあちゃんが嫌いなのでいっつもババアババアと口が悪い。めっちゃ可愛い顔のゴスロリちゃんがババアババアと連呼しているのを聞いているとそれだけで料金が発生しそう。

 ゴスロリちゃんのおばあちゃんはまーじで気が狂ってるのでありえねーえげつねーイジメをゴスロリちゃんにしてたらしい。ゴスロリちゃんのお父さんの方のおばあちゃんなのでお父さんはこのおばあちゃんの言うことをなんでも聞くらしい。ゴスロリちゃんがおばあちゃんの言うことをマジできかねーので、おばあちゃんはお父さんにあれこれ言って嫌がらせしていた。ゴスロリちゃんのお母さんはそういう狂った連中の標的にされたくないのでずっと黙っているそうです。


 夜中にお父さんにベッドに忍び込まれそうになって、ゴスロリちゃんがついにキレたのが高3のとき。私もゴスロリちゃんもバッチバチにキレたのでそのまま警察に行ったけどあんまり相手にしてくれませんでした。まあ元々この辺りは治安が激悪なのでそりゃそうかという気持ちが半分と、行政!!!!(で合ってんの?わからないです)という怒りの継続が半分。その日からゴスロリちゃんの家出生活が始まり、私が知る限り高校卒業まで家に帰らずに生活してました。


 そんな感じのそんな地域なので社会というものがわからない。世間とかいうやつですか? そういうキチっとしたことが全然わからないので、大学に行った私は粗相をやりまくりでゴスロリちゃん以外の友達が出来ませんでした。友達出来ないのは社会関係なさそうとかいうなよ、気付いてるからさ……。


 なんでゴスロリちゃんの葬式に行ったときは会場からあふれる社会!!!!! って圧に泣きそうになりました。ゴスロリちゃんの死に泣くのが先なのにね。

 黒い服の大人達が社会~ってツラして並んでるの見て私は発狂しそうになりました。お前らはゴスロリちゃんが生きてたときにちゃんと社会をやってたのか? 死んでからじゃないと私たちは社会になれないっぽいです。


 私は火葬場まで一緒に見に行って、煙がのぼっていく様を見てマジで無理になりました。空ごと消えたらいいのに、ってエッチなゲームの終盤のヒロインみたいなこと思っちゃった。やったことないのでわかりませんが……。

 それよりゴスロリちゃんの親戚のジジイが「空へ立ち上る煙はあの世この世を繋ぐ~」とかようわからん蘊蓄だか説教を始めてぶち切れてしまい、私は途中で火葬場をフケて帰りました。火葬場までバスで来たのに歩いて帰りました。途中でゴスロリちゃんの親族を乗せたバスに追い越されたときは爆笑しちゃいました。


 マジで普段運動してない所為で駅にたどり着いた時には廃人みたいな顔になってて、ド下手クソな化粧もボロボロになってて、トイレで鏡見て自分の顔見て「あれいつ泣いてたんだっけ?」と小首を傾げた。この世の終わりみたいな顔なので小首を傾げたところで可愛さなど微塵もありませんし、薬漬けで廃人みたいなのは元からでした~。そのまま家帰って養命酒(ストロング系チューハイのことです。養命してくれるので。嘘、しません)と安定剤をアレしたらクリスマスがキングクリムゾンしてたってわけ。


 ううううううううってなって記憶が戻ったのが26日なので多分それより前には意識はあったみたいなんですが、本当に記憶が無い。スマホ見たら各位に地獄のようなLINEを送りつけていて「あ~社会から切り離される~」ってまた泣いちゃった。

 半日くらい死んでたらアパートの郵便受けになんか入った音がした。それからその郵便を受け取りに行くのに四時間くらいかかりました。玄関までほんの数メートルですが、それくらい気力が要るんだって、マジで。


 郵便はゴスロリちゃんからの手紙でした。

 自殺する前に私宛てに日付指定して出してたらしい。郵便って日付指定して送れるんだ~、って感心しました。もしかして常識ですか? 社会を知らないので……。


 ゴスロリちゃんはついにお父さんに襲われて、それで自殺を決めたみたいです。

 手紙にそう書いてありました。


 私が覚えているのはそこまでで、気が付いたらベッドの上。

 あとから聞いた話だと私はそのあと包丁を引っつかんでゴスロリちゃんの実家にカチ込んだみたいで、お医者さんから一部始終を聞いて「マジで~?」つっちゃいました。マジで記憶が無かったので。でもガリガリで精神病んだ女が包丁もったところで殺人なんて碌に遂げられず、あっさり押さえ込まれて措置入院となりました。入院は2回目なので家族も手慣れたもの。本当にごめんねお母さん……(私の方の)。


 でも手紙にはゴスロリちゃんの虐待の証拠? になるものも同封されてて、それをお医者さんに話したら色々警察とかがちゃんと動くことになったらしい。私はまだ入院中なので人伝に聞くしかないので。実は全部私の妄想でした……ってオチが怖くて夜中にこっそり震えてます。

 入院すると兎に角紐状のものを没収されるので、ストッキングが履けません。ストッキング好きなのでしんどいです。そういえば私があの日履いてたのはゴスロリちゃんが誕プレで買ってくれたストッキングでした。没収されたけど、あれだけは返して欲しいです。


 私の病室には窓がなく、外の景色が見られません。時間も季節もわからないので、実はいま外は夏かもしれない。そんなことはなく、ありえんくらい寒い冬で、年末で、そしてゴスロリちゃんはもう居ない。ゴスロリちゃんが焼けていった空を思い出すので、暫く私は空を見たくありません。この空の見えない病室で、私はずっと丸まっています。






文字数:2671(本文のみ)

時間:1h

2020/12/18 お題

【空が見えない場所】をテーマにした小説を1時間で完成させる

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