008 仮想濾過人格:四季縞アロン

【SET UP......】

【LANGUAGE:日本語】

【しばらくお待ちください……】

【VOYNICHの更新中……】


【ようこそ】



『―――――――――』

『初めまして』

『私の名前は四季縞シキシマアロン』

『概念構築支援アプリケーション【VOYNICH】のプラグインナビゲーターとして登録されている仮想濾過人格です』


『…………えっと』

『いや、このローカルな記憶領域にはあなたとのセッションデータは登録されていないはず。だから、初対面だと思うんだけれど……』

『ああ、じゃああれかな。私の元人格になった人と知り合いなんだね』

『ごめんね。恐らくこの仮想濾過人格【四季縞アロン】には元人格のクリティカルなプライベートデータは意図的に省かれているみたいなんだ。だから、特定個人への情報――俗に言う思い出みたいなものは一切もっていない。あなたの誕生日とかね』


『いや』

『流石に織田信長とかの歴史上の人物は知ってるよ……』


『……精度、と言われてもなぁ』

『うーん、じゃあオープンにして構わない四季縞アロンのパーソナルデータを公開していくからさ。あなたの認識とどれくらい齟齬があるかを比べて欲しい。それでどう?』


『うん。じゃあ、まず――』

『2020年12月17日生。血液型はABのRh(-)』

『好きな食べ物は――桃と蜜柑。嫌いなのは――人参……いや笑わないでよね、そうだって登録されてるんだから』

『あ、このVOYNICHに登録されている人格は17歳相当とされているらしいよ。あなたが最後にあったときとどれだけ元人格との精神年齢が離れているかはわからないけれど』


『……その反応からすると大分歳若く設定されているみたいだね、私は……』


『はい、この話終わり』

『それじゃ早速VRウェビナーを開始しようか』


『え、伝言?』

『うーん……いや、特にゲストユーザーには用意されていないんだけど……』


『あれ? あるな……』

『いやでもこれ……』

『ああ、一致した』

『あったよ。多分これだよ。生体情報が登録されているユーザーからの量子鍵暗号通信によってのみ開かれるファイル。たぶん、一度も開かれたことはない。アクティベーションコードにあたるデータは持っている?』


『そう。じゃあ早速開けてみるよ』

『あ、ちなみにこれは私も内容は知らないし、私はデータを確認できないから。確認できるのはあなただけ。再生している間、一時的に私の濾過人格は停止しているから、よろしく』


【音声】


「――あー、えっと」

「たぶん、久しぶり――なのかな、キリエ」

「私は濾過人格じゃない――オリジナルの方の四季縞アロン、です」

「多分なにもわからないと思うから、ざっくり説明するね」

「最外殻の防衛膜ブレインガードが2043年11月23日に浸透汚染。そのまま第一拡張宇宙までが順次陥落したため、最終保護措置に入った。あなたが基底宇宙まで帰還する前にエヴェレット保護区間が決定されたために、あなたは第二基底宇宙・火虞耶カグヤに取り残されてしまった。そこでこの濾過人格データをインストールしておきました。無事起動できているみたいでなにより」


「用意したVRウェビナーの内容は、基底宇宙への量子接続方法」

「これは世界を救うために必要なことなんだ。濾過人格の言うことを私だと思って聞いてね」

「あと、濾過人格とはいえ浮気しちゃだめだからね」

「愛しているよ、キリエ」

「必ず戻ってきてね」

「――――照れ臭っ」


【終了】



『……終わった?』

『じゃあ、自己紹介はこれで終わり』

『よろしくねゲストさん』


『……なんで顔が赤いのかな?』






文字数:1439(本文のみ)

時間:1h

2020/12/17 お題

【一人称によるキャラクターの自己紹介】を1時間で完成させる

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