007 プレガバリンシーサイド

 5階から飛び降りても人間は案外生きているっぽくて、2ヶ月も高校を休んで入院してたら日常生活に戻れと言われてしまう。寛解してももっと体のあちこちがガタガタになっちゃうのかな~って思ってたけどとりあえず私は今普通に歩けてます。


 部屋でリリカをODしてたらお母さんから「今日は学校行きなさい」と怒られた。いつもだったら無視するんだけどリリカをODしてたので「あ、今日は学校楽しいかもしんない~」と思っちゃって素直にお母さんの言うことを聞いて家を出た。学校楽しかった事なんて小学校のときくらいまでにしかなかったのにね。


 ワイシャツにアイロンかかってたことなんてないし、というか部屋のどこに制服用のワイシャツがあるかわからないくらいに散らかっている。学校なんて行く気なかったから仕方ないね。プリーツスカートは割と学校じゃなくても着ているからすぐに見つかる。ベッドの中に脱ぎ散らかしてた。


 マジでワイシャツ見つかんなかったので諦めて寝間着用に着てたロンTにガッコのスカート穿いていくことにした。あれ下着つけてっけ? 家を出てから確認したけどちゃんと付けてた。ラリってても人間は下着くらいはちゃんと付けてけるらしい。昔素面でノーブラで外出たことあったけどもな……。


 学校に着いたらもう11時で見張りの先生なんてとっくにいない。ていうかこの格好じゃ普通に不審者が入ってきたかと思われそう。


 昇降口なんか誰もいねーだろ~って油断してたら誰かと出くわした。

 ギャル。メッチャ日焼けしてる黒ギャルがいた。

 あーもう強そうなJKだぁ。ラリって登校してる陰キャの女とか一撃で100人くらい倒せそうな強キャラの女。多分いじめられるわ。中学の時めっちゃ勉強も出来て顔もいいクラスの強そうな女にいじめられていらい強い女が無理。幼女か優しいシブいオジサマしかいない世界になったりしねーかな。


 黒ギャルは会うなり「暇?」って聞いてくる。

 誰だよお前知らねーよ。

 でもそのときの私はラリってた所為で「暇ー」つっちゃった。考える前に言ってた。あータメ口とかきいたら殺されるかなって思ったけどなんかもうどうでもよくなった。ていうか平日の学校だぞ、お互いに暇な訳あるかよ(ラリってド遅刻してるとか都合の悪いことは棚に上げていけ)。


 黒ギャルはローファー履きながら「海行くけど一緒に行く?」って聞いてきた。

 黒ギャルでもちゃんとローファー履くんだなぁって感心してた。私スニーカーなんだけどなって思って自分の靴みたらサンダルだった。なんもかんもODが悪い。

 サンダル履いて学校来てる馬鹿みたらそりゃ海に誘うわな。

 行く行く~って脳味噌ふわふわさせながら答えて、で、結局、この人誰?


 お父さんにSuicaパクられてたのを駅に着いてから思い出した。いまどき都民で小銭で切符買う奴いる? まあ私なんですけども……。

 電車乗ってから「ところでなんで海なん?」って黒ギャルに訊いてみた。普段だったらタメ口とか出来ねーわ。ラリってると人間はコミュ障が治るっぽい。そういえば就活するときにウイスキー入れると舌が回るってカラオケ一緒にいった男子大学生が言ってたな。あの人内定取れたんだろうか。

 黒ギャルはスマホ弄りながら「先生に怒られたから~」つってて、シンパシー感じました。いや、嘘、感じない。もはやワタシャ先生にも怒られないからね……学校来なさすぎて。


「今日初めて日サロいって金髪に染めて学校行ってみたんだ。そしたら担任に見つかって超怒られた。スプレーで髪黒くされそうだったから逃げてきた」


 わぁ…………。

 まさか今日黒ギャルデビューのJKだったとはね……。

 めちゃくちゃ安心した、今日デビューなら殺されないわ。きっと。多分。その筈。

 

「ふ~ん……で、なんで海なん?」

「人生で一回くらい学校サボって海とか行ってみたいじゃん?」

「あ~……そうですね。人類の夢だわ」


 社会性があるので話を合わせることが出来ます。本当は海とか超どうでもいい。というか行きたくない。海行ったら水着なって肌晒して、そしたら体中傷だらけだってことバレちゃう。5階から飛び降りた体とか海でどう思われるんだろうね。あと左手首ももれなくズタズタです。傷跡がイカ焼きっぽくて逆に海にはお似合いかな~?

 まあそもそも水着持ってきてないからな!

 小学校のスク水はお母さんがネットで売って諭吉に変えてもうありません。水着で買った寿司は美味しいか? 美味しかったです……。


 流石に10月とかなると海に人はおりません。

 サンダルに砂がはいってじゃりじゃりして超キモイ。

 なんで海に来たんだっけ……ラリってたからだわ。なんもかんも以下略。

 いやでもリリカODしながら眺める海はめっちゃキラキラしてて綺麗でいい。今度っから海辺でODしてみよっかな。

 ぼげーっと海を眺めてたらいきなり黒ギャルが私を抱きしめてそのまま海へと走り出した。黒ギャルってめっちゃ力あんのな! いや私が超ガリガリな所為もあるけどさ。これはそろそろ殺される奴か~って思ってたらそのまま黒ギャルは私を抱えて一緒に海に飛び込んだ。


「つめてェ~~!!!!!」


 黒ギャルが叫ぶ。10月ですからね。

 実はこいつもこっそりラリってたか……と思って黒ギャルを見ると泣いていた。

 目元の化粧が落ちて黒い涙になって頬を伝う。馬鹿みたいな顔に見えたけど笑えなかった、黒ギャル、黒ギャルメイクをしてない方が可愛いよ……。


 黒ギャルは元々陸上部だったらしくて、この前膝を壊してもう走れなくなったらしい。もう自棄になったので部活の日焼け跡を日サロで焼いて上書きして、学校に来て、そんで先生から怒られたらしい。鉄剤注射してまで吐きながら練習したのに、膝を壊したって知った顧問から見放されたって、泣きながら黒ギャルは言う。


 一生懸命頑張ってる奴が体壊して悔しくて泣いてるのに、私はなんもないのに飛び降りたり薬でラリってたりして、なんかもう申し訳なくなって私も泣いた。


 翌日学校に行ったら黒ギャルはもう黒ギャルじゃなくなってて、「また遊びに行こう」って私に言ってくれた。でもそのときの私はもうラリってなかったので、元黒ギャルと喋るのはマジでぎこちなかった。

 ラリってないと元黒ギャルとまともに話せない。

 でももう元黒ギャルと会うときはラリってたくないなーって思ったので、それ以来元黒ギャルとちゃんと喋れたことは、結局一度も無いまま卒業してしまった。






文字数:2597(本文のみ)

時間:1h

2020/12/16 お題

【海辺】をテーマにした小説を1時間で完成させる

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る