お題:【そして東の空へとんでいった】で”終わる”小説
怒号。銃声。悲鳴。大人が2人入るかどうかという小さな物置の中、もう何時間続いたのかわからない外の喧しさに耳を閉ざして城崎美奈子はうずくまる。
はじまりはおよそひと月前、友人の1人がニキビの悩みを相談してきた。とは言えその時は何とも思わなかった。美奈子自身はニキビができたことは無かったものの、中学三年生にもなれば一つくらいできてもおかしくないのだと言うことは知識として知っていた。スキンケアの方法なんて聞かれてもよくわからなかったから、自分が使っている洗顔フォームとネットで調べたニキビを消す方法を教えてあげた。
それから1週間して、朝食の時に母の首と妹の額にニキビを見つけた。友人のことを思い出し、ちゃんと顔を洗うように声をかけたと記憶している。それから更に2週間した頃には村でニキビが無いのは美奈子だけになっており、なんとなく怖かったから実は背中にできているのだと誤魔化していた。
そして昨日。村に見慣れない黒服の男達が現れて、虐殺が始まった。
初めに殺されたのは村長。それから役場の人たち、診療所の先生、学校の先生、概ね老人から順に大人、子供と殺されていった。順番は厳密なわけではなかった。美奈子のクラスメイトはおじいちゃんと一緒にいるところをまとめ撃ち殺されていたし、学校ごと爆破された時には先生も生徒も山ほどいたはずだ。とにかく、大雑把に動き回りながらあいつ等は殺していった。美奈子が生きているのは単なる偶然だ、美奈子の家に黒服の男達が来たときにたまたま物置で探し物をして、たまたまその中に飛び込んでじっとしていたのがたまたま気付かれていないだけだ。恐怖、それに生きていることそのものの申し訳なさで今にも心が圧し潰れそう。いっそのこと殺されてしまえばと何度も思ったが、死の恐怖が勝り足はおろか指の一本も動かない。
そうしているうちに、もうどれだけの時間が経ったのだろうか。あたまが時間の感覚を狂わせる。何時間経っただろう?あいつらはもうどこかに言ってしまっただろうか?(違う、悲鳴はまだ聞こえている)あるいは今も私を探して歩き回っているのだろうか?(いやだ、想像するだけで耐えられない)いっそのこと、もう殺してもらえたら楽なのに(うそだ、まだしにたくない)
(だれか、たすけて)
声にならない叫びが漏れる。同時に、物置の扉が乱暴に開かれる。黒服の男が3人、拳銃を、ナイフを、火炎放射器を構えてこちらを見下ろしている
「……を確認、捕獲しますか?」
「———では、———ですね?」
「はい、それでは……に……を」
よく、聞こえない。聞く意味もないだろう。ああ、これでやっと
「
◇
――――システム、正常動作を確認。高速射出モードに移行します。
無機質な電子アナウンス。全長3メートル前後の機械仕掛けの武者鎧、弐〇式機動外骨格は歴代最大級のコンディションを発揮していた。
「簡易ブリーフィングを始めます。これよりカタパルトから弐〇式を打ち出せば15秒程度で目的地に到着するので、君には現地で要救助者を保護してもらいます。他の人間は君の判断に任せますが、感染者の可能性が高いため放置推奨です。カタパルトは瞬時に君を音速の32倍まで加速させるので、くれぐれも舌を噛まないように。じゃ、準備はOK?」
「無論」
短い応答。それで十分。まだ見ぬ敵を見据える。
「要救助者はまだ中学生の女の子。ミナコちゃんっていうそうだ。くれぐれもやさしくエスコートしてあげなさい。それじゃ、行ってらっしゃい!」
シャッターが開きカタパルトが展開する。目標は山奥の小さな村。弐〇式機動外骨格はゆっくりと角度を補正され、そして東の空へとんでいった。
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