第二十話 高校三年順子、紗栄子と順子
紗栄子は智子がだんだんおかしくなるのに気づいた。ヤク中の症状が出ているようだ。どうしようか?紗栄子はいろいろ考えた。順子がこれに噛んでいるのは間違いない。だが、順子は康夫と彼女の三人組に裏切られているのも事実だ。
美久には知らせたくない。今は幸せにしておいてやりたい。じゃあ、智子を穏便に助けるには誰が適任だろう?康夫と康夫のグループ、恭子、敏子、恵美子たちと相手しなくちゃならないだろう。そうなると?美久の次に強いのは誰だ?順子だ。康夫と三人組に裏切られてもいる。仕方ない、順子と組もう。
紗栄子は順子を千住じゅう探し回った。やっと見つけた。紗栄子が順子に声をかける。
「順子ネエさん、やっとみつけたぜ。面貸してくんな」
「なんだ、紗栄子、因縁つけようってのか?」
「ちげぇーよ。あんたに見せたい動画があるんだ。あんたに関係するものだよ。こりゃあ、親切でやっていることだよ。どっかの路地に行こうや」と紗栄子は近場のラーメン屋の横の豚臭い路地に順子を連れて行った。ラーメン屋の換気扇がうるさい。
紗栄子は、カバンからiPadを取り出して、康夫と三人組の乱交動画を順子に見せた。それは、近くのビルの屋上から順子の借りているマンションの部屋を盗み撮りしたものだ。レンズSEL70300Gの最大300mmで撮影してある。夜間だがかなり鮮明に撮れていて、細部までわかる。スタビを使っているので、部屋の一部ににスタビを固定してあり、場面が飛ぶことはない。
部屋の窓はカーテンが開けられていて、まず、クイーンベッドの上で三人組が絡み合っている映像から始まった。しばらく経つと部屋に康夫が入ってきた。恭子、敏子、恵美子に順番にクスリをポンプで打っていく場面。敏子と恵美子がどでかいクイーンサイズのベッドで絡み合い、その横で康夫が恭子を犯す場面。次々に康夫が敏子、恵美子を犯す場面。三人組が康夫に絡みついて、康夫の全身を愛撫する場面。元の映像は二時間以上だが、紗栄子はそれを十五分ほどに編集しておいたのだ。
動画が進むにつれて、順子の顔が青ざめ、唇を血が出るほど噛んでいる。
「紗栄子、これは美久の差し金か?」と順子が聞く。「ちげぇーよ。美久ネエさんには知らせていない。私が恭子の後をつけて、盗み撮りしただけさ。美久ネエさんは知らないよ。節子と佳子は知っている。あんた、私の幼馴染の智子をはめたろう?売り、やらせただろう?その動画もあるよ」
「ああ、そうだ。恭子が智子をたぶらかしてね。でも、私がやらせた。恭子のせいじゃない」
「まあな、あんたは美久ネエさんの妹分だ。言い逃れはしねえよな」
「ああ、康夫とこの三人のやっていることは別にして、クスリを使って売りをやらせていたのは私だよ」
「キッパリしていいこった、とは言わないよ。私は、あんたや康夫や三人組がどうなろうと知ったこっちゃない。それはあんたらの問題だ。だけど、私は智子を助けたいだけだよ。穏便にね。それで、あんたと組もうと思ったのさ」
「私と?組む?・・・紗栄子、具体的にどうするのさ?」
「この頃、智子の様子がおかしいんだ。あんた、クスリを智子に盛りすぎたんじゃないか?」
「いや、量は・・・え?まさか、恭子が?」
「そうかもしれない。康夫がレズの恭子とこうなっているってことは、あんたを通さずに、康夫は恭子にクスリを流していた可能性がある。つまり、康夫と恭子は直接取り引きをし始めた、ってことじゃないか?順子ネエさんよ?」
「・・・」
「だから、あんたがクスリの量を決めても、恭子は勝手に康夫から流れたクスリを智子に使ったってことも考えられるよな?あんたの三人組もやばいぜ。ポンプで康夫から血管に直接クスリ打たれてるしよお」
「・・・」
「最近の学校での智子を見ると、わかるやつなら、ヤク中の症状だって、すぐわかるぜ。ヤバいんだ。ああなってくると、クスリ欲しさに何するかわからない。もしかしたら、バックレて、バラシをやつらにかけてクスリを強請りとろうとするかもしれない。そうしたら、康夫と恭子が智子に何をするかだ。順子ネエさんよ、あんたも美久ネエさんの一番の妹分だったろう?あんたの良心になんか期待しないが、あんたも美久ネエさんが好きだったろう?美久ネエさんの後釜なんだろ?ここは、ひとつ、私と組んじゃあくれまいか?」
「・・・クソっ!・・・ああ、紗栄子、わかったよ。私はどうすりゃいい?」
「まず、二人で智子を見張ろう。なんかあれば、私はあんたの腕力が必要だ。わたしゃ、喧嘩は弱いからね。美久ネエさんの次に強いのは、順子ネエさん、あんただからな」
順子の借りているマンションの近くのビルの屋上。紗栄子がカメラをマンションに向けてセットした。二人共黒尽くめの格好だ。紗栄子はカメラのモニターをのぞき込みながら、順子に聞いた。順子は紗栄子の横で脚を投げ出して座っている。
「順子ネエさん、前から聞きたかったんだが、あんた、なんでこんな風になっちまったんだ?あれだけ美久ネエさんに可愛がってもらって、一番の妹分だったじゃないか?」
順子はメンソールのタバコを取り出して火を付ける。「紗栄子も吸うか?」「私は止め・・・まあ、いいや、一本もらうよ」順子は紗栄子のタバコに火をつけてやる。
「そうだなあ、ヤケに美久が・・・美久ネエさんがキラキラしだしたじゃないか?高校二年から。それまでもキラキラしてたが、あの大学行きます!って話から、もっとキラキラしてきてね。私が行けない、たどり着けない世界に行ってしまう気がしたんだよ」
「でも、美久ネエさんのキラキラだけのせいかい?あんた、処女は康夫とだったね?康夫が原因かい?」
「間接的には、そう言えるかもね。クスリの話を持ち込んだのもアイツだしね。でもね、私は、自分で自分を管理できない、人であれ物であれ自分をコントロールされるのに忌避感があったんだよ。美久ネエさんもそうだと思う」
(今の美久ネエさんを見ていると、違うと思うけどなあ。依存とか『自分を他人にコントロールされる』とかそういうメンツの問題じゃなく、美久ネエさんと兵藤さんを見ていると、お互いの信頼と愛情なんじゃないか?見返りを求めない愛ってヤツじゃないか?って思うけどなあ。今のこの人に言っても無駄だろうけどな)
「だから、康夫のせいさ、ってことは言えないよ。私の、自分自身のせいなんだよ。美久ネエさんがキラキラして、離れて行ってしまって、私はどんどん汚くなって行くような気がしたのさ。嫉妬だよ。美久ネエさんに対する嫉妬と対抗心だよ。クソォ、なんでこんなことになっちまったんだろうね?紗栄子」あの気の強い順子が紗栄子に弱音を吐く。まるで変わってしまう前の昔の順子のようだ。
「運さ」とカメラのモニターを見ながら紗栄子がボソッという。
「運?」紗栄子を見上げて順子が言った。
「そう、運だよ。巡り合わせで、歯車が狂っちまったんだ。美久ネエさんは、本人だけじゃなくて、周りに恵まれていた幸運があったんだよ。それを受け取る度量もあったけどな。美久ネエさんと同じような、キレイで強くて誰もが羨む順子ネエさん、あんたは、似たような条件だったのに、不運だったって話さ。私は、あんたや美久ネエさんみてえにキレイでもなきゃあ強くもないや。あんたより持って生まれた運は少ないよ。でもな、今はそれでも自分で自分の運を切り開いてやろうと思っているんだ」
「え?」
「順子ネエさん、私は自衛隊に入隊しようと思ってる。まあ、分銅屋の南禅さんや羽生さんを見てね、自衛隊に入るのも面白いかもしれないって思ったんだ。下から始めて、どうなるかわからないけど、南禅さんみたいな士官になりたいんだよ。それで、国家機密とやらもタッチしてみたいのさ。自分の運がなけりゃあ、しかたない、運を自分で切り開きたくなってきたんだ」
「ふん、紗栄子、おまえまでキラキラしてきやがって・・・」
「あんただって、遅くないと思うぜ」
「ふん、まあ、そういうのって、考えておくよ。でもね、今は、自分で起こしたこの不始末を片付けないとな」
「おおっと、順子ネエさん、あんたの男が智子をマンションに連れ込んだぜ」
「紗栄子、おまえ、グサッと来るようなことをいうじゃないか?」
「こりゃあ、今は康夫を止められないや。まあ、動画は取っておこう」
康夫と智子が絡みだしてしばらくたった。「順子ネエさん、智子と康夫がもめてるぜ?何かあったな」と紗栄子が順子に言った。「康夫が電話をしているぜ。なんだ?誰か呼び出しているのか?康夫が智子をひきずっている」
それからしばらく経った。「車が来たよ、順子ネエさん。マンションの照明が消えた。おっと、あいつら、智子を車に乗せたよ。拉致るつもりか?」
「行き先はわかっているよ」
「え?どこ?」
「私らの使っている廃工場跡だと思う」
「そんな場所があったのか?」
「ああ、康夫の手下に女の子をあてがったり、バックレた女の子を脅したりする場所だよ」
「ヤバいじゃねえか?節子たちに知らせないと・・・」
「紗栄子、お願いだ。ここは私に始末をつけさせちゃあくれまいか」
「え?知らせねえってことか?」
「おまえは残っていいよ。知らせてもいい。でも、私はこの始末は私だけでつけるよ」
「何いってんだ、順子ネエさん。ここまで来たら、私もあんたと一緒に行くぜ」
「喧嘩が弱いってのにか?」
「いざとなりゃあ、火事場の馬鹿力も出るだろ。頼りないが、一人よりはマシだろ?しかし、勝算はあるのかい?」
「ねえよ、そんなもん。おまえが輪姦されて、美久ネエさんが半グレの事務所にグループの誰にも知らせないで、たった一人で殴り込んだ時、美久は勝算なんか考えなかっただろう?」
(あ!こいつ、まだ美久ネエさんに対抗して・・・いや、こいつ死ぬ気か?死んでもケジメつける気か?こいつ、高校一、二年の頃の順子に戻ったのか?そういえば、美久と順子が組むと化け物のように強かったな。仕方ねえや、化け物の一人に加勢してやるか?)
「じゃあ、紗栄子、行こうか?」順子はタバコを弾き飛ばした。
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