第45話 兵共が夢の跡 (手紙)

 手紙は、姫君からであった。

『拝啓』という、極めて他人行儀な二文字から始まったとき、嫌な予感がした。

手紙はこう続いている。


『秋は、草木が色づいて美しくなる一方で、変色し続けて、それらの命が終わってしまう悲しい季節で御座います。

あなたの身体の具合が快方へ向かっていると聞いており、大変喜ばしく思っております。

 以前私が見舞いに訪ねたとき、あなたに冷たく断られてから、私はずっと、長い夜をうら寂しい思いで過ごしておりますが、あなたはいかがお過ごしでしょうか。

 あなたは私を断るとき、怪我を理由に致しましたから、当然あなたも、美しい女郎花が数多に咲く野原にいてもなお妻を恋ふて鳴く鹿の様に、わたしを思っているのでしょうね?

 その様なことは分かっておりますが、しかし、紅葉の散って積もった庭で、松虫が鳴くのを聞くと、一体誰を待っているのだろうと疑わずにはいられません。

だって、あなたは私を断ってから一通の手紙すら、お送りになってはくれなかったもの。

 ところで、今もまだ、あなたの元に、沢山の恋文が届いていると聞いております。

『をみなえし 秋野の風に うら靡き 心一つを たれに寄すらむ』

――――女である女郎花は、秋野の風に打靡いて従ったふりをしてるけれど、その心を一体誰に寄せているのかしら――――』


 手紙を読み終えたとき、体中から血の気が引いていく感覚があった。

もしも、アザミを部屋の中に入れたと姫君が知ったら――――

 今でさえ、きっと激怒していらっしゃるのに、そんなことになったら本当に終わってしまうぞ。


まだ痛む身体を無理に起こして、

 わたしはすぐに文机に向かって手紙を書き始めた。

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